京都大学(京大)と熊本大学の両者は3月7日、2016年4月に発生した熊本地震前後の長期にわたる多地点での地下水位観測データを詳細に分析した結果、地下水位は地殻の歪みを感知するセンサとして機能し、特に主要な帯水層である砥川溶岩での変動が地殻歪みと関連することがわかったと共同で発表した。

同成果は、京大大学院 総合生存学館の山本駿大学院生、同・大学 工学研究科の小池克明教授、同・大学 総合生存学館の山敷庸亮教授、熊本大 理学部の嶋田純名誉教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。

熊本地域では2016年4月に発生した熊本地震以降も、断続的に比較的大きな地震が発生している。もともと熊本地域では、地下水を主要な水源として利用していたことから、多くの観測井戸が存在し、水位や水質などのデータが継続的に取得されていた。そこで研究チームは今回、熊本地震の前9年間と後の7年間の計16年にわたる地下水位変動データを解析の対象に選び、降水量・気圧・地球潮汐を地下水位変動の主要因とした多変量回帰モデルを作成することにしたとする。

  • 016年4月熊本地震の発生前後での地下水位変動と計算モデルによる残差成分

    (a)2016年4月熊本地震の発生前後での地下水位変動と計算モデルによる残差成分。(b)GNSSの観測データによる地表の地殻変動パターンを近似する2本の直線(2014年前後)(出所:共同プレスリリースPDF)

今回の研究では、モデルに基づく計算値と実測値との差、つまり3要因では説明できない水位変動(残差成分)は地殻歪みに関連すると仮定してモデル作成が進められた。すると、17か所の地下水観測井戸のうち、4か所が残差成分の大きな井戸だったとし、残差成分は、2011年3月の東北地方太平洋沖地震の発生後は低下し続け、2014年ごろに増加に転じ、2016年の熊本地震まで増加し続けたという特徴があり、これは応力解放から地殻の歪みの増大に転じたためと解釈したとする。この変動パターンの転換は、衛星測位システム(GNSS)観測データによる地殻変動データのトレンドが変化する時期と重なることも見出された。

また、ボーリングデータから作成された帯水層の3次元数値モデルと、観測井戸の重ね合わせが行われた結果、それら4か所の井戸での地下水注入部(ストレーナ)は多孔質で透水性の高い砥川溶岩と先阿蘇火山岩類の上部に位置することが判明。地殻歪みとの関連が特に明瞭な残差成分が示された井戸は、熊本地震発生源となった布田川断層帯までつながり、砥川溶岩からなる帯水層にストレーナが設けられていることも明らかになったという。

  • 地層の3次元数値モデルと帯水層の分布(白色部)および観測井戸での地下水流入部分(ストレーナ)との重ね合わせ

    (a)地層の3次元数値モデルと帯水層の分布(白色部)および観測井戸での地下水流入部分(ストレーナ)との重ね合わせ。(b)砥川溶岩のボーリングコアの一例。(a)での丸数字は観測井番号、水色は地殻歪みと関連した地下水位変動が示されたと考えられる井戸を表している(出所:共同プレスリリースPDF)

多変量回帰モデルに基づく地下水位の残差成分の変動は、2019年と2022年に熊本地域で発生した地震でも同様のパターンが示され、地殻歪みとの関連がより確からしいものとなっているとした。これらの成果は、多孔質で透水性の高い帯水層での地下水位が地殻歪みに敏感に応答し、地下水位の詳細な観測により、従来よりも高い空間密度で地殻歪み変化を把握できる可能性が示されているとしている。

地下水位と地殻歪みの関係をより詳細に明らかにするためには、水質や地殻深部由来ガスなどの地球化学的観測および衛星測位システム(GNSS)や微小地震活動などの地球物理学的観測による結果と併せた総合的な解釈が必要だという。また、今回の研究で見出された特徴が、ほかの地域での多孔質で透水性の高い帯水層における地下水位変動でも見られるのかを確かめるために、観測データの蓄積や残差成分の解析を含むデータの解釈を深め、地下水位-地殻歪み関係の普遍性と精度を高める今後の研究発展を期待するとしている。