ホウレンソウなどの冬野菜は気温低下を感知し、凍結耐性を高めるために細胞壁の多糖を増やすことを、埼玉大学大学院理工学研究科の高橋大輔助教(植物生理学)らが突き止めた。この働きは多くの植物で認められており、凍結耐性を改変することで農作物の収量増加や品質の向上につながる可能性がある。

冬野菜は他の季節より甘くておいしいことが昔から知られている。おいしさの元は細胞内の糖分だ。細胞液が水ならば理論的には摂氏零度以下で凍ってしまうが、冬野菜の細胞液は気温低下を感じると糖分が増えて凝固点を下げるなどし、零下でも凍らず生存できるようにしている。

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    実験植物のシロイヌナズナを気温22度からいきなり零下10度に冷やすと凍って枯れる(左)が、1週間ほど4度で栽培して寒さに慣らす(右)と凍らなくなる(埼玉大学の高橋大輔助教提供)

埼玉大の高橋助教らは、これまで構造の分析などが難しく凍結耐性の仕組みが分かっていなかった細胞壁に注目。ホウレンソウ、コマツナ、シュンギク、エンドウの4野菜について細胞壁を抽出し、細胞壁を構成する多糖3種(ペクチン、ヘミセルロース、セルロース)を分離した。

気温22度で栽培し続けた場合と同4度で1週間栽培した場合について、多糖3種それぞれに含まれるグルコースをはじめとする単糖の割合を比較したところ、ペクチンの構成要素である単糖ガラクトースの割合が2倍ほど顕著に増加していた。先行研究などから、ペクチンで増加したのはガラクトースが連なる側鎖「β-1,4-ガラクタン」と考えた。

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    多糖であるペクチンは、基本的な構造をつくる「主鎖」と枝のように分かれる「側鎖」からできている。主な側鎖の一つに単糖であるガラクトースが連なった「β-1,4-ガラクタン」がある(埼玉大学の高橋大輔助教提供)

寒さにさらすと細胞壁内でガラクタンが増えるかを調べるため、実験植物のシロイヌナズナを準備。組織中のガラクタンが光るようにして観察すると、細胞壁で蓄積しているのが確認できた。

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    緑色に光るガラクタンが4度の栽培下(左から0、1、3、7日間)で増えていく様子。右下の白い線は50マイクロメートルを示す(埼玉大学の高橋大輔助教提供)

一方、突然変異によってガラクタンを合成できなくなったシロイヌナズナは、寒さに慣らした後でも零下10度に置くと、組織が広く死んでしまった。

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    4度で寒さに慣らしたシロイヌナズナ(左)は零下10度でも大部分が赤い液で染まり生きていた。一方、ガラクタンを合成する遺伝子を欠いたもの(右)は生きている部分が少ない(埼玉大学の高橋大輔助教提供)

不溶性の多糖が占める細胞壁の凍結耐性の仕組みは細胞内とは別で、高橋助教は「細胞壁の厚みの増加や多糖のネットワークの密さといった植物の形状の変化を起こすものとして、ガラクタンが関わっているのではないか」と話す。

研究は、大阪公立大学や東京工業大学などと共同で行い、米生物学誌「カレントバイオロジー」に2月8日付けで掲載された。

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