「企業は、どうすれば社会から存在価値があると認めてもらえるかを、皆さんが模索している」と話すのは、関西経済同友会代表幹事の角元敬治氏。地政学リスクも高まる中、それまで当たり前だと思われていたビジネスの前提、企業に求められる社会的責任が大きく変わった。経営者はどういう意識で取り組むべきなのか。そして関西では2025年に万博も控える中、経済浮揚に向けて必要なことは─。
ビジネスの前提が大きく変わった
─ コロナ禍、地政学リスクもありますが、日本企業が変化を求められている時ですね。
角元 ロシア・ウクライナ戦争や中東・ガザで起きている事態を見ていると、冷戦後の平和な30年が完全に崩れたことを痛感します。我々のビジネスの前提が変わったということです。
グローバルサプライチェーンの中から、常に価格が安いところから供給を受けていた体制は、もう成り立ちません。その中で売り上げを伸ばしながら、いかにリスクをヘッジするかを経営者は常に考えなければなりません。
もう1つ、企業は「利益を上げてさえいれば良い」という時代では完全になくなりました。どうすれば社会から存在価値があると認めてもらえるかを、皆さんが模索している状況です。例えばGX(グリーントランスフォーメーション)や地域への貢献などで企業が果たすべき役割は何なのかを、経営者が考えなければなりません。
私が属している銀行業界も、先がなかなか見えない混沌とした状況の中にありますが、その中でも会社としてのパーパス(存在意義)を打ち出し、それに共感する従業員と一緒に活動していくことが、より重要になっています。
─ 日本は年初から株価が上昇していますが、経済環境をどう見ますか。
角元 日本はコロナが収束し、インバウンド(訪日外国人観光客)を含め、個人消費が持ち直しています。また、GX、DX(デジタルトランスフォーメーション)という課題がある中、企業が設備投資を積極的に行っています。
物価も上がり、賃上げもそれに追いつかなければという雰囲気になっており、日本もようやく好循環に入りつつあります。先行き不透明な部分もありますが、先は暗くないと見ています。
ネックは人手不足です。人口が増えない日本では恒常的なものになってきており、今後さらに深刻化する可能性が高い。少ない人でどう活動していくのか、働き方を含めて真剣に考える必要があります。その中で淘汰も起きてくるかもしれません。
─ そうした状況下で開催された「関西財界セミナー」ですが、今回の議論の手応えは?
角元 皆さん、私が申し上げたような問題意識を抱えながら日々仕事をしておられます。その中で日常の仕事から離れてオフサイトの場所に集まって、長期的な、大きな課題について、会社の立場を少し離れて議論するというのは意味のあることだと思います。
議論の中で様々な気づきも得られますから、時代の転換点に立つ経営者の方々にとっても意義のあるセミナーになったのではないでしょうか。
「大阪・関西万博」の成功に向けて
─ 関西では2025年に「大阪・関西万博」の開催が控えています。建築費の問題も取り沙汰されますが、成功に向けて必要なことをどう考えますか。
角元 実は建設の部分はあまり心配をしていないというのが、関西財界全体の雰囲気です。それ以上に大事なのが機運の醸成です。具体的には国内外の方々にいかにチケットを販売していくかという現実的な課題がある中で、万博開催に向けた機運をしっかりと盛り上げていかなければなりません。
今後、パビリオンや催事など様々なコンテンツが発表されます。かつての大阪万博で多くの方が感動や驚きを味わったわけですが、今回も特に若い人達にぜひ来ていただきたいですね。
世界からも多くの方々が訪れる中、出展者それぞれが「いのち輝く未来社会」について考えたことを展示するわけですが、それを見るだけでも非常に価値があります。そして何かを感じ取っていただければと思います。
─ 関西経済の浮揚に向けて今後、必要なことは何だと考えていますか。
角元 例えば、かつて関西はそれぞれが特徴ある地域の〝寄せ集め〟だと言われてきました。行政面では関西広域連合という仕組みはありましたが、最近は企業、大学などを含めた連携が進むようになってきました。スタートアップ支援についても、大学同士が連携してエコシステムを構築するなどしています。この流れを、さらに推し進めていくことが重要です。
─ 今後の関西経済同友会が果たすべき役割は?
角元 大阪には関西経済連合会、大阪商工会議所、そして関西経済同友会と3つの団体がありますが、それぞれ成り立ち、果たすべき役割が違います。
中でも同友会は、経営者が個人の資格で集まっていますから、自由闊達な議論が前提になっています。ですから、先んじた提言など、他の団体ではできないようなトライをしていくことが大事だと思います。
そして、団体内での多様性をいかに保持し続けていくかも重要です。他の地域との連携、学生も含めた若者達との交流、交歓の中で、様々な意見を汲み取りながら発信していく役割が求められるのではないでしょうか。