世界との戦いに向け「個性」ある開発を
─ 共存共栄の道ですね。森トラスト社長の伊達美和子さん、再開発も手掛ける中で24年のオフィス市場の動向は?
伊達 23年秋頃から、企業からの移転、増床の打診が増えています。「5類」に移行して以降、秋口からはオフィスの仕事のあり方が変わってきたと思います。
企業が採用強化を進める中で、良い立地にオフィスがあること自体が、優秀な人材集めにつながることが認識され始めており、オフィス探しが進んでいます。結果的に空室率が下がりつつある状況で、24年はオフィス回帰が進むだろうと見ています。
働き方を変えなければいけないという認識は皆さんお持ちで、リモートワークも一部ハイブリッドのような形で残ると思います。一方、オフィスも従来のままではなく環境を改善し、従業員が快適な空間で仕事ができるようにする、付加価値を生むためのコミュニケーションをしやすい空間づくり、「顔が見える」環境が望まれています。
─ インバウンドがコロナ前を上回る状況ですが、ホテル・リゾートの状況をどう見ますか。
伊達 ホテルは、上半期は観光需要が大きく、インバウンドの復活はリゾート系の方が少し早かった。都市部は秋口からビジネス需要も復活し、7割ほど海外の方が宿泊される状況です。中国需要の復活はまだ先ですが欧州、豪州、ASEANからの反応が強く、コロナ以前、それ以上の状態に回復しています。
我々が現在進めている案件も、オープン間近が2件、開発・建設中が3件ほど、合計25のプロジェクトが控えており、順次開発を進めていきます。
─ 攻めの投資が続くと。
伊達 ええ。次の展開はホテルのブランドを冠したレジデンスやホテル客室を購入し、自らが利用するとともに、利用しない時はホテル客室として貸し出し、稼働に応じた賃料収入を得る「ホテルコンドミニアム」という形で都心における新規分譲事業も考えています。
─ 地方都市での需要掘り起こしも進めていますね。
伊達 23年8月に開業した「紫翠 ラグジュアリーコレクションホテル 奈良」は43室ですが、1日で約1200室分のご予約をいただくなど反応がよいですね。また、長崎の「ホテルインディゴ長崎グラバーストリート」は伝統的建造物をホテル化するプロジェクトで欧米の方々からも注目されています。
海外の方は日本の地方にも興味をお持ちで、不足していた受け皿さえあれば潜在的需要は顕在化するのだと思います。またインバウンドが好調とはいえ、世界との戦いです。そこで生き残ることを考えると、ホテルの「個性」が必要だという考えで、長期的視点で開発しています。