日本IBMは3月7日、オンラインで記者説明会を開催し、ビジネスのためのAI&データプラットフォーム「IBM watsonx」をはじめとしたAI技術を活用して、戦略策定からシステム開発・運用・プロジェクト管理まで包括的に支援する「IT変革のためのAIソリューション」を体系化し、同日から提供を開始すると発表した。

AIによる業務変革の実現をサポート

はじめに、日本IBM 執行役員 IBMコンサルティング事業本部 ハイブリッド・クラウド・サービス事業部長の鹿内一郎氏は、昨今におけるIT業界の課題と変革の必要性について「ITの需要増加が見込まれているものの生産年齢人口の減少し、工数依存からの脱却が望ましい状況だ。また、人材の流動化と有識者の高齢化により、自社システムを熟知していないエンジニアが増加しているため、有識者依存からの脱却が求められている。そして、技術進化と社会ニーズが多様化していることをふまえ、研鑽と積みつつ業務余力を確保していくことが必要となっている」と指摘。

  • 日本IBM 執行役員 IBMコンサルティング事業本部 ハイブリッド・クラウド・サービス事業部長の鹿内一郎氏

    日本IBM 執行役員 IBMコンサルティング事業本部 ハイブリッド・クラウド・サービス事業部長の鹿内一郎氏

こうした状況を鑑みて、生成AIをITの開発・運用業務に取り込む必要性を説いている。工数依存の脱却では、スピードの向上と工数削減・適正化が期待されていることに加え、有識者依存からの脱却に関しては有識者の知見を組織内で蓄積・活用が見込まれる。また、研鑽/業務余力を確保できれば新たな領域での価値創造が可能になるという。

そのため、同社では“価値創造に向けたEnd to End(エンドツーエンド)での業務変革の実現”を掲げ、(1)企画・体制整備から(2)分析・要件定義、(3)設計・開発、(4)テスト、(5)運用までを含む、IT業務工程に対する横断的な生成AIの活用を提唱している。鹿内氏は「これら5つの領域において、AIのためのソリューションを用意した」と述べている。

  • 価値創造に向けたEnd to Endでの業務変革の実現を掲げている

    価値創造に向けたEnd to Endでの業務変革の実現を掲げている

5つAIソリューション

今回、同社が発表したAIソリューションは「AI戦略策定とガバナンス」「コード生成のためのAI」「テスト自動化のためのAI」「IT運用高度化のためのAI」「IT運用高度化のためのAI」の5つだ。

システム開発や運用などにAIを活用することで、省力化や生産性向上、有識者知見のLLM(大規模言語モデル)への取り込みが可能となり、情報システムに関わる人の働き方を変革していくことができるという。

AIソリューションに関して説明を行った、日本IBM 執行役員 IBMフェロー IBMコンサルティング事業本部 最高技術責任者(CTO)の二上哲也氏は「昨今ではAIの活用は広がりつつあるが、IT部門における生成AIの活用が進んでいない声もあり、当社で生成AIなどを活用して、あらかじめソリューションを作り込んだうえで提供できればと考え、開発している。基幹システムを含め、AIなどの先進技術を活用してITのスピード向上や品質向上を実現するソリューションだ」と話す。

  • 日本IBM 執行役員 IBMフェロー IBMコンサルティング事業本部 最高技術責任者(CTO)の二上哲也氏

    日本IBM 執行役員 IBMフェロー IBMコンサルティング事業本部 最高技術責任者(CTO)の二上哲也氏

5つのソリューションはIBM watsonxをはじめとした同社の製品群に加え、「Red Hat OpenShift」、AWS(Amazon Web Service)、Microsoft Azure、オンプレミスサーバでも稼働できるという。

AI戦略策定とガバナンス

ITライフサイクルにおける生成AI活用の戦略策定とガバナンスを提供。さまざまな事例にもとづいた最適なAIユースケースやコード生成のためのAIなどを活用した生成AIプロトタイプによる生成AI活用シナリオの早期確立と、生成AIを組み込んだ開発プロセス・標準策定によるガバナンスと適用対象を拡大する。将来的にはベストプラクティスを学習した生成AIによる新たな価値提供も実現していく。

  • AI戦略策定とガバナンス

    AI戦略策定とガバナンス

コード生成のためのAI

生成AIとさまざまなテクノロジーを融合・最適化し、基幹システム含むシステム構築を効率化する。

生成AIとローコード開発などを最適融合し、システム構築ライフサイクル全体を効率化し、基盤モデルの「watsonx.ai」に、同社の共通追加学習と顧客の標準コードを個別学習させることで、顧客環境に最適化した「仕様書からJava/COBOL/PLIコードの生成」、「コードから仕様書の作成」、「COBOL/PLIの既存システム分析やテスト自動化、基盤コード生成」が可能。これらはハイブリッド・マルチクラウドにも対応している。

  • コード生成のためのAI

    コード生成のためのAI

テスト自動化のためのAI

従来のテスト自動化の仕組みに生成AIを組み込み、テスト効率化と仕様変更に対する柔軟性を向上させる。

要件や仕様情報を入力後、テストデータを自動生成し、テストスクリプト生成からテスト実行/検証まで、画面打鍵テストのプロセスをシームレスに自動化する。これまで自動化が難しかった単発の機能テストや、仕様変更が多いアジャイル開発でも柔軟に自動化を適用することで効率化できる。

  • テスト自動化のためのAI

    テスト自動化のためのAI

IT運用高度化のためのAI

生成AIや自動化技術を活用し、IT運用を高度化。問合せに対するチャットボットでの自動応答でオペレーターの負担を軽減し、定型作業の自動化、インシデント検知から対応まで自動化して、複数イベント集約による復旧時間を最小化する。

また、生成AIがインシデント要約を作成し、過去の対応実績から障害の根本原因や解決策候補を、関連する設計書や手順書を検索して提示。定型作業や復旧作業を自動化し、自動化スクリプトの生成など、インシデント・定型作業対応を高度化する。

  • IT運用高度化のためのAI

    IT運用高度化のためのAI

プロジェクト管理のためのAI

AIテクノロジーでPMO(プロジェクトマネジメントオフィス)の作業を支援し、プロジェクト品質を確保。

社内プロセスや規程、プロジェクト管理関連の質問へのチャットシステムの自動回答、プロジェクトレポートの自動生成、プロジェクトKPI自動評価やAIによる総評、要注意プロジェクト情報の提供、過去実績データに基づくプロジェクト品質の確保や評価・予測により、PMO業務を支援する。

  • プロジェクト管理のためのAI

    プロジェクト管理のためのAI

日本IBM社内でも推進体制を整備

今後、2027年には分析、要件定義、設計/開発、テスト、運用における仕様書作成やテストを中心に効率化し、有識者によるレビューを含めても30%以上の効率の向上を目指す。また、2030年には自動化に加え、有識者の知見をLLMに取り込んだAIによるレビューの仕組みを構築することで、開発と運用全体で50%のスピード向上と抜本的な効率化を図る考えだ。

  • 今後のロードマップ

    今後のロードマップ

一方、こうした動きを支えていくために同社内の体制も整備し、推進コアチーム、PoC(概念実証)&テクニカルエキスパートチームを設ける。さらに、地域DXセンターの技術系全社員にIT変革のためのAIトレーニングを実施することに加え、協力会社にもトレーニングを提供し、グローバルにおけるデータとAIの専門家2万1000人の知見も活用していく。

二上氏は想定される環境について「顧客サービスシステムや基幹システム、製品・製造・販売システム、社内業務システム、統合運用基盤などが想定されている。IT変革のためにAIで何が変わるのかと言えば、システム効率の効率化やIT運用効率化が挙げられる。例えば数十行以上の業務コードをAIで生成できるほか、コードから日本語仕様書の生成も可能だ。また、障害予兆検知やIT運用ヘルプデスクに加え、インシデント対応もAIが障害を要約することもできる」と述べていた。