堀場製作所と大阪公立大学(大阪公大)は3月6日、2023年10月1日にそれぞれの特色や研究資源を活かし、競争優位な人材の育成や教育の充実、研究の推進に寄与することを目的として締結した包括連携協定の本格始動を宣言。同日、今後に向けた具体的な連携事業についての説明会を開催した。

  • 包括連携協定の記念写真

    握手を交わす大阪公立大学の辰巳砂昌弘学長(左)と堀場製作所 代表取締役会長兼 グループCEOの堀場厚氏(右)

堀場製作所と大阪公大の50年以上続く縁

大阪公大は、2022年より積極的な産学官民の連携を通じて研究シーズを社会実装し、地域の課題解決と未来社会の創造をめざす「イノベーションアカデミー事業」を推進してきている。同大は2022年4月に大阪市立大学と大阪府立大学が統合する形で開校。会見にて大阪公大の辰巳砂昌弘 学長は、堀場製作所と連携協定を締結できたことに対する喜びのコメントと共に、大阪公大の開校に至る流れの中で1955年にそれまでの浪速大学から大阪府立大学へと改称され、設置学部の大規模な新設・再編に尽力した堀場信吉氏(堀場製作所の堀場厚会長の祖父。1952年11月より浪速大学の学長を務め、大阪府立大学となった後の1956年11月に退任)についても語り、当時から現在まで続く堀場製作所との深い縁(えにし)を強調していた。

  • 堀場信吉氏

    堀場信吉氏は堀場製作所創業者である堀場雅夫の父で、現在の会長である堀場厚氏の祖父。1952年より浪速大学の学長に就任するなど、大阪公大とも縁が深い (出所:堀場製作所)

一方の堀場製作所の代表取締役会長兼グループCEOを務める堀場厚氏は大阪公大を「全固体電池をはじめとするエネルギー領域・半導体領域・ライフサイエンス領域などに対し卓越した研究力を持ち産業界ともつながりを持っている」と評価。同社は、2024年2月に新たな中長期経営計画「MLMAP 2028」を発表し、注力市場として「エネルギー・環境」「バイオ・ヘルスケア」「先端材料・半導体」の3分野を掲げており、大阪公大が強みを持つ分野と重なる部分があるとともに分析・計測ソリューションによるビジネスの拡大に必要となるとの思いを語っている。

両者は「それぞれが強みとする研究領域における親和性の高さから、両者の連携によってイノベーションを推進できる」と判断したことで今回の包括連携が実現したとしていた。

包括連携を推進する3本の柱

今回の連携協定においては、以下の3本柱で取り組みを進めていくという。

  1. 産学官民の「トライアングル連携」による社会実装
  2. スマート社会の実現に向けた共創分析プラットフォームの構築
  3. 高度な技術系人材の育成
  • 包括連携協定の概要

    包括連携協定の概要 (出所:堀場製作所)

まず1本目の柱としては、長期的な人材交流を軸に産学官民の“トライアングル連携”による社会実装。

堀場会長は、これまでの自社の歴史を振り返った際、「社会課題の解決に向けた技術開発には、要素技術とその社会実装を行うプラットフォーマーの1対1の連携だけでなく、研究開発に欠かせない分析・計測あるいは製造品質に欠かせない計測制御技術を組み合わせたトライアングル連携が重要で、そうした三者の連携によって事業成長が支えられてきた」とコメント。

今回の連携では、大阪公大の要素技術、堀場製作所の分析・計測・制御技術、そしてプラットフォーマー(企業・地域行政)を組み合わせたトライアングル連携によって独創的なオープンイノベーションに取り組みたいとした。

2本目の柱としては、スマート社会の実現に向け1つ目の柱であるトライアングル連携のプラットフォームとなる「分析ラボ」の構築。

大阪公大のイノベーションアカデミー共創研究拠点「スマートエネルギー棟」内のOpen Labを拠点に、リモートで分析機器の操作やデータの供給・共有を行える仕組みを作っていくほか、データの共有だけでなく機器や分析技能士のリソース管理や、AIを活用したデータ解析、試験効率の最適化を図っていくツールを共同開発し、共創プラットフォーム上に実装していくことによってさまざまな研究の支援をしていきたいと説明したほか、この共創プラットフォームをトライアングル連携の社会実装パートナーともつなぐことによって連携を強化し、共創研究をサポートする仕組みを作りたいともしている。

3本目の柱となる高度な技術系人材の育成については、大阪公大のOpen Labと堀場製作所グループの分析ラボ「Analytical Solution Plaza」間で、共創分析プラットフォームを活用して分析・計測機器を共有し、分析技術エンジニアの双方の交流を深めると共に、大阪公大の若手研究者に分析・計測機器に関するトレーニングを行い、分析エキスパートを育成することで、多様なパートナーとの共創を加速させていくともしている。

また大学生の長期インターンシップの実現や、堀場製作所の研究者による大学研究室での勉強会への参加、企業活動の紹介など相互に人材交流を深めることによって、新たなイノベーションのアイデアの創出を図るとともに高度な技術系人材の育成に取り組むともしていた。

このほか、説明会では2025年に竣工予定である大阪公大 中百舌鳥キャンパスのイノベーションアカデミー共創研究拠点(スマートエネルギー棟)のオープンイノベーションスペースの名称について、堀場信吉氏の名を冠した「堀場信吉スクエア」とすることが決定したことも明らかにされ、改めて両者に深い縁があることが強調された。

  • スマートエネルギー棟の外観

    大阪公大 中百舌鳥キャンパスのスマートエネルギー棟の外観 (出所:堀場製作所)

なお、この連携協定の期間は3年間としているが、両者の総合知を活かし研究シーズを社会実装することで社会課題の解決を目指す観点から、期間終了後の継続についても今後検討していくとしている。