米宇宙企業スペースXは2024年2月26日、昨年11月に実施した新型ロケット「スターシップ」の2度目の統合飛行試験(IFT-2)の飛行結果を発表した。
同社は、「多くの重要なマイルストーンを達成した」とし、「試験は成功」とした。また、機体が爆発した原因についても特定し、対策や改良を行ったとした。
早ければ3月14日にも、3度目の飛行試験に挑むという。
スターシップの飛行試験と課題
スターシップ(Starship)はスペースXが開発中のロケットで、全長は120m、直径は9mで、打ち上げ時の質量は5000tもあり、地球低軌道に150t以上の打ち上げ能力をもつ、人類史上最大・最強のロケットである。
機体は第1段の「スーパー・ヘヴィ(Super Heavy)」ブースターと、第2段の「スターシップ」宇宙船からなる。強大な打ち上げ能力を実現するため、スーパー・ヘヴィには「ラプター」ロケットエンジンを33基、スターシップ宇宙船にも6基を装備する。
また、両機とも飛行後に着陸して回収し、再使用することができ、飛行機のように運用することで、劇的な打ち上げコストの低減と打ち上げ頻度の向上を目指している。
2023年4月には、スーパー・ヘヴィとスターシップを組み合わせた状態で、初めて宇宙へ打ち上げる飛行試験「IFT-1 (Integrated Flight Test 1)」に臨んだ。しかし、飛行中にラプター・エンジンが複数停止したり、スーパー・ヘヴィとスターシップの分離に失敗したり、発射台が大きく損傷したりと、多くの課題が残る結果に終わった。
これを受け、スペースXはスターシップに多くの改良を施した。
その代表例のひとつが分離方法である。従来、スーパー・ヘヴィとスターシップ宇宙船の分離には、分離直前に機体に少しスピンを与えたうえで、両者を結合している器具を外すのみという、きわめて簡素な仕組みを使っていた。これにより、コスト低減や運用性の向上といったメリットがあるとしていた。
しかし、IFT-1ではこの方法でうまく分離できなかったことなどから、IFT-2では「ホット・ステージング」という仕組みに変わった。これは、スーパー・ヘヴィのエンジンの燃焼が終了する直前に、スターシップ宇宙船のエンジンに点火し、その勢いで分離するというものである。分離部に新たにガスを逃したり受け止めたりするための構造物が必要にはなるものの、比較的シンプルかつ軽量な分離機構を実現できる。また、1段目がまだ燃焼中に2段目に点火して飛んでいくことで、速度の損失も小さくできる。
過去に他のロケットでも採用例のある分離方法だが、スターシップほどの巨大なロケットでは初めての採用となった。
もうひとつの大きな変更点が発射台である。IFT-1では、33基のラプター・エンジンが噴射する莫大な燃焼ガスに耐えられず、発射台やその周辺の地面を吹き飛ばし、発射台の基礎部分が見えるほど大きくえぐれてしまった。
そこで新たに、噴射ガスを受け止めて外へ逃がすフレーム・ディフレクターに大量の水を撒くことで、衝撃を緩和する仕組みが取り入れられたほか、発射台もより強固に補強された。
機体は爆発も、「試験は成功」
こうした対策を経て、スターシップIFT-2は日本時間2023年11月18日22時2分(米中部標準時同日7時2分)、テキサス州にある同社の施設スターベースから離昇した。
スーパー・ヘヴィに装備された33基のラプター・エンジンはすべて正常に始動し、IFT-1のときのように途中で止まることなく、完璧に燃焼した。
その後、ホット・ステージングによる分離にも成功した。
分離後、スーパー・ヘヴィは発射台に(IFT-2ではメキシコ湾上)に戻るために行う「ブースト・バック」燃焼を開始し、33基あるラプター・エンジンのうち13基に再着火し、燃焼を再開した。
しかし、燃焼中に数基のエンジンが停止し始め、その後1基のエンジンが破壊され、そしてスーパー・ヘヴィは爆発――スペースXの用語では「急速な予定外の分解(rapid unscheduled disassembly)」した。爆発は、離昇から3分半以上経過したメキシコ湾上空の高度約90kmで発生した。
スペースXによると、最も可能性の高い原因は、エンジンに液体酸素を供給する部分にあるフィルターの閉塞と考えられるという。この閉塞により、エンジンの酸化剤ターボポンプの入口圧力の低下につながり、最終的に1基のエンジンが故障、破壊され、機体を失う結果となったとしている
同社はこれを受け、スーパー・ヘヴィの酸化剤タンク内のハードウェアを変更し、推進剤のろ過能力を向上させ、信頼性を高める改良を施したという。
一方、スターシップ宇宙船は、6基のラプター・エンジンすべてに正常に点火し、分離後も計画どおり飛行した。そして離昇から約7分後、追加で搭載していた液体酸素を排出する作業を行った。
この追加の液体酸素は、将来、実際にペイロードを軌道に送り込むミッションを行うことを見据え、必要なデータを収集するために搭載されていたものだった。ただ、IFT-2では軌道には乗らず、ハワイ沖の海上に落下させる計画だったため、安全面などの理由からタンク内の推進薬量に制約が設けられていた。そのため、その制約を満たすため、飛行中に余剰となった液体酸素を排出する必要があった。
しかし、液体酸素の排出を開始した際、スターシップ宇宙船の後部セクションから漏れが発生し、さらに燃え出し、火災を引き起こした。そして、宇宙船のフライト・コンピュータ同士間の通信不能につながった。
その結果、計画された燃焼が完了する前に、6基のエンジンすべてが停止し、そして自律飛行安全システムが問題を検知して、飛行中断システムを作動させ、機体を破壊(いわゆる自爆)した。
スペースXはこの問題についても、原因究明と対策を完了したとし、今後打ち上げられるスターシップのハードウェアの変更を実施し、漏れの低減、防火性の向上、信頼性を高めるため推進剤の排出に関連した操作の改良を行ったとしている。
また、以前から、ラプター・エンジンのステアリング・システムを油圧から電動へ改良することが計画されていたが、この改良も火災の潜在的原因を取り除くことに役立つとしている。
このほか、IFT-1では大きく損傷した発射台については、水冷式フレーム・ディフレクターなどの改良が期待どおりの性能を発揮し、打ち上げ後の作業は最小限で済み、機体の試験や次の飛行試験に向けてすぐに準備することができたという。
スペースXでは、「スターシップIFT-2は、これまで開発された中で最も強力な打ち上げシステムの能力を発展させ続けるうえで、多くの重要なマイルストーンを達成しました」。「試験は成功しました」としている。
スペースXは、早ければ3月14日にも、3度目の飛行試験を行うことを計画している。この試験で使うスターシップには、前述のように爆発などのトラブルを受けた改修のほか、スターシップ宇宙船のラプター・エンジン用の新しい電動式推力ベクトル制御システムの搭載、さらに打ち上げ前の推進薬充填作業のスピード向上など、さまざまな改良を施しているという。
スペースXはまた、「さらに多くのスターシップが飛行可能な状態にあります。これら飛行に使うハードウェアを、実際に飛行させて試験することで、可能な限り迅速に学習することができます。さまざまな軌道や地球、月、火星の着陸地点に、衛星、ペイロード、人員、貨物を運ぶことができる完全再使用型の打ち上げシステムを構築するためには、反復型開発と改善が不可欠なのです」と結んでいる。
参考文献