国立天文台は3月3日(ハワイ現地時間)、すばる望遠鏡を含む大型望遠鏡を用いた観測により、天王星と海王星を巡る衛星を新た3個発見し、そのうちの1つは、地上の望遠鏡で発見された中では最も暗い衛星であることを発表した。

  • 2021年9月7日にすばる望遠鏡で撮影された、海王星の15番目の衛星となる「S/2021 N1」の発見画像

    2021年9月7日にすばる望遠鏡で撮影された、海王星の15番目の衛星となる「S/2021 N1」の発見画像(中央の黒い点)。すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ「Hyper Suprime-Cam」が使用され、5分露出の20回の撮像が2時間おきに実施された。それらの画像を惑星の動きに合わせてずらしながら重ねることにより、天王星と海王星の周囲でこれまでにない深さの探査画像が得られたとした。(c)Scott Sheppard/カーネギー研究所(出所:すばる望遠鏡Webサイト)

同成果は、米・カーネギー研究所のスコット・シェパード教授らの国際共同研究チームによるもの。今回の発見は、国際天文学連合 小惑星センターの2024年2月23日付の「小惑星電子回報」を通じて公表された。

今回発見された天王星の新衛星は1個で、2023年にチリのマゼラン望遠鏡で発見され、その後、すばる望遠鏡とマゼラン望遠鏡で2021年に撮影された画像にも写っていることが確認された。まだ名称はなく、仮符号「S/2023 U1」が与えられている。同衛星の直径はおよそ8kmしかなく、天王星の衛星の中では最小であり、公転周期は680日。なおこの発見により、同惑星を周回する衛星の総数は28個になった。

一方、今回発見された海王星の新衛星のうち、15番目となる暗い方は2021年にすばる望遠鏡で初めて発見され、その後にチリのVLT望遠鏡とハワイのジェミニ望遠鏡での特別な観測時間によって軌道が決定された。仮符号は「S/2021 N1」が与えられており、直径が約14km、公転周期は約27年だ。同衛星の明るさはわずか27等級しかなく、肉眼で見える下限とされる6等級と比べると、そのおよそ2億5000万分の1の明るさしかなく、地上の望遠鏡を用いて発見された中で最も暗い衛星となったとする。

また海王星の16番目の衛星となる明るい方の天体は、マゼラン望遠鏡によって2021年に発見された後、2022年と2023年に同望遠鏡による追観測で軌道が確認された。仮符号は「S/2002 N5」が与えられており、直径約23km、公転周期は約9年。なお同衛星の軌道をたどったところ、2002年に一度観測された後に見失われていた天体と同一であり、今回再発見されたことが判明した。

新たに発見された3つの衛星は、それぞれの惑星から遠くを周回しており、軌道も楕円形で惑星の赤道に対して傾いた軌道を持つ。衛星は、惑星と一緒に形成された場合、その大半は惑星の赤道にほぼ沿った軌道を持ち、また軌道も円形に近いことが多い。しかし、惑星から遠く、楕円形で傾いた軌道を持つ衛星の場合は、惑星が形成された後に、もとは独立した小惑星だったものが、惑星の重力によって捕獲されたことが示唆されているという。

また木星や土星の外側の衛星には似通った軌道を持つグループが複数存在しているが、それらと同様に、天王星と海王星の外側の衛星の中にも似た軌道を持つグループが存在することが示されている。似た軌道を持つグループは、過去に大きな衛星が彗星や小惑星との衝突によって破壊され、元の衛星と似た軌道に破片が残されたことを示唆しているとする。初期の太陽系は、さまざまな天体間で移動(軌道要素の変化)や衝突が常に起こっている混沌とした場所だったことが想像されるとのこと。そして太陽系の外側の4つの巨大惑星は、その大きさや形成過程に関係なく、外側の衛星の配置が類似しており、自転軸が横倒しになっている天王星ですらそれが当てはまるとしている。

海王星の向こうにある未知の惑星を探査しているシェパード教授は、これらの外側の衛星がどのように捕獲されたのかを理解することで、太陽系初期の波乱に満ちた歴史と、外縁領域における惑星移動に関する新たな知見が得られることを期待しているとした。