第一生命ホールディングス(菊田徹也社長)が企業向け福利厚生代行サービス最大手、ベネフィット・ワン(ベネワン)の買収をようやく決めた。人口減少や少子高齢化などを背景に主力の国内保険市場が縮小する中、非保険事業を拡大する狙い。
ただ、医療情報サイト運営、エムスリーとの争奪戦となった経緯から、買収総額は2920億円(1株当たり2173円)に膨らんだ。
ベネワンは1996年、パソナグループの社内ベンチャー第1号として「ビジネス・コープ(現ベネフィット・ワン)」を設立したのが始まり。その後は福利厚生事業の草分けとして成長し、会員数は約1千万人。近年は福利厚生や健診代行など人事・総務関連のアウトソーシングサービスを提供している。
今回の買収劇は「後出しジャンケン」とも言われる異例の展開を辿った。ベネワンの親会社である人材派遣大手、パソナと合意の上、エムスリーが昨年11月中旬から1株当たり1600円でTOB(株式公開買い付け)を実施していた最中の同12月上旬、第一生命HDが1株当たり1800円以上で買い付けるという「対抗案」を突如示し、争奪戦に発展した。
「奇策」とも言える手段を講じてまで第一生命HD経営陣がベネワンを傘下に収めたかった背景には、2つの理由がある。
まず本業である国内生保事業が先細りし、成長源を失うことへの強烈な危機感。近年、生保業界では、収益性が高い死亡保障や医療保険の販売不振が続いている。第一生命HDも23年4―12月期に新たに獲得した契約が将来生み出す利益を示す「新契約価値」(国内分)が前年同期比65%減の90億円と、大幅に落ち込んでいる。
さらに、年間の投資上限額が大幅に引き上げられた新NISA(少額投資非課税制度)が今年1月からスタートしたことも逆風。保険を解約し投資信託や個別株の購入に回す動きが活発化している。
もう1つはライバル、日本生命の動向。同社は23年11月末に介護最大手のニチイ学館を傘下に持つニチイHDを買収した。
大手他社も主力の保障性保険の顧客離れに悩む事情は同じ。生き残りに向けて、介護やヘルスケアなど保険と関連の深い周辺事業へのビジネス拡大が必須と見られ、今後も大手生保の大型M&Aが続く可能性がある。