金は極めて安定した物質だが、ナノメートル(ナノは10億分の1)サイズの粒子になると、それ自体は変化せずに化学反応の速さを変える「触媒」の性質を発揮する。この粒子を特定の方法により、金属酸化物が集まった粒子「ナノクラスター」で保護すると、性質が安定して利用しやすくなることを、東京大学、東京都立大学などの研究グループが明らかにした。有害物質に代わって酸素を酸化剤として使え、金以外のさまざまな金属にも応用でき、医薬品や各種材料の合成、資源循環など多彩な活用が期待できるという。

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    研究成果の概要(東京大学提供)

金は化学的に安定した物質で価値が高く古来、装飾品などに使われてきた。一方、ナノ粒子だと逆に他の物質とよく反応し、触媒として化学品合成やエネルギー変換、汚染物質除去などに利用できる。ただ、溶液の中では集まって大きな粒子になり、使いにくい。また金属酸化物ナノクラスターを結合して保護しても、従来の方法だと、使いたいと望む条件で安定しなかった。

そこで研究グループは、こうした難点を克服する金ナノ粒子の開発に挑んだ。水と油の関係のように2層に分かれて混ざらない、水とトルエンを溶媒に使用。水の方に金イオンと金属酸化物ナノクラスターを溶かした。「相間移動剤」と呼ばれる物質を加え、トルエンに溶けている臭素イオンが水に移るのと引き換えに、金イオンと金属酸化物ナノクラスターをトルエンへと移動させた。このトルエンに還元剤を加え、金属酸化物ナノクラスターで保護した金ナノ粒子を合成した。

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    実験した金ナノ粒子の合成。水に金イオン(黄色い球)と金属酸化物ナノクラスター(緑の半球)を溶かした。相間移動剤(波線)を加え、両者をトルエンへ移動させ、還元剤を加えるなどした。Br-は臭素イオン(東京大学提供)

この粒子を電子顕微鏡で観察したところ、ナノクラスターに囲まれた直径約3ナノメートルの金の粒子を確認。溶液中で1年経っても安定し、また触媒としてよく働くことが分かった。金の表面の一部をナノクラスターがほどよく覆っており、安定性と活性の両立を実現した形だ。

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    開発した金ナノ粒子。中央の明るい粒がそれぞれ金の原子。周囲にうっすらと金属酸化物ナノクラスターが見える(東京大学提供)

また酸素を使い、アルコールをはじめとする多彩な有機化合物の酸化反応で、触媒として優れた性能を発揮した。有害なクロムやマンガンといった酸化剤が工業生産で広く使われてきたが、大気中にありふれた酸素が“環境に優しい酸化剤”として、これらに代わり得ることを示した。

この技術は金のみならずルテニウムやレニウム、ロジウムなどの金属ナノ粒子の合成に使える。医薬品や機能性材料の合成、資源循環やエネルギー変換のための触媒、エレクトロニクス分野などの材料開発への応用が期待できるという。

研究グループの東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻の鈴木康介准教授(触媒化学)は「金は高価だが、触媒なので何度も使えばよい。金ナノ粒子には光を吸収する性質があり、センサーの材料などとしても使われている。幅広い分野への発展が楽しみな成果となった」と話している。

研究グループは東京大学、東京都立大学、物質・材料研究機構で構成。成果は2月6日に英科学誌「ネイチャーコミュニケーションズ」に掲載された。研究は科学技術振興機構(JST)創発的研究支援事業、同戦略的創造研究推進事業、日本学術振興会科学研究費補助金、同研究拠点形成事業などの支援を受けた。

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    開発した金ナノ粒子(中央の模式図)は酸素(O2)を酸化剤とし、アルコールの酸化(左上)のみならず、脱水素反応(左下)、カップリング反応(右)など多彩な酸化反応で触媒として機能する(東京大学提供)

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