フランス国立科学センター(CNRS)と東京大学の両者は3月1日、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)とアルマ望遠鏡を用いて、オリオン星雲にある、年齢百万年以下の誕生したばかりの原始惑星系円盤「d203-506」を観測し、誕生したばかりの年齢百万年以下の若い惑星系の形成に、近傍にある質量の大きな星が重要な役割を果たしていることを明らかにしたと共同で発表した。
同成果は、CNRSのオリヴィエ・ベルヌ氏を中心に、東大の研究者も参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、米科学雑誌「Science」に掲載された。
我々の太陽は、地球の質量の約33万倍もあり(直径は約109倍)、太陽系の全質量の99.8%以上を占めるなど、太陽系の中では圧倒的な存在。しかし宇宙スケールで見た場合、太陽は恒星として小さい部類に入り、「小さい星」であることを意味する「矮星」の一種である「黄色矮星」に分類される。
太陽よりも大きな星は割合としては少ないものの、その総数は決して少なくない。たとえば、大質量星が存在した証拠としてブラックホールが挙げられる。ブラックホールは、太陽の20倍以上の大質量星が超新星爆発を起こした際に、その後に残されるが(30倍ぐらいまでは条件次第で中性子星が残される場合もある)、天の川銀河だけでも同天体は1億~10億個あると見積もられている(1万個ほどとする説などもある)。中には、太陽質量の数百倍と見積もられている超大質量星も観測されており、もはや数字を見てもまったくその大きさを実感できないほど。
大質量星は、単に重力が強いという以上に、周囲の宇宙環境に対して、多大な影響を及ぼす。わかりやすいところでは、生涯の最期に超新星爆発を起こし、強大な重力を持つ中性子星やブラックホールなどの重力の非常に強いコンパクト天体を残すといった宇宙規模の破壊的な影響がある。
星は、大きいほど核融合に使う水素の消費量が増加するため、それだけ明るくなっていく(消費量が多いので寿命も短くなる)。質量が太陽の10倍以上になると、その明るさは太陽の10倍ではきかず、なんと10万倍以上にもなるという。また、巨大な明るい星は紫外線の放射も強力。大質量星の誕生の仕方は未解明な部分も多いが、小型の星と同様に分子雲の中でほかのいくつもの兄弟星と共に、ほぼ同時期に誕生すると考えられている。ほぼ同時期とはいっても、宇宙138億年の時間スケールで見た場合の話であり、厳密には差があるため、先に大質量星が輝き出した時は、その近傍に後から生まれた惑星系が存在すると、その惑星系は非常に強い紫外線にさらされることになる。
強い紫外線はエネルギーが高く破壊的で、生命の誕生という観点では殺菌されるようなものであり、マイナス要因となる(大質量星を巡る惑星は、それがたとえ水が液体の状態でいられるハビタブルゾーンにあったとしても、強い紫外線の影響で有機分子が破壊されやすく、生命は誕生しにくいとされる)。
しかし、惑星の誕生の場合は異なるという。もちろん、その強い紫外線が惑星系にある物質を散逸させてしまうことで惑星形成を妨げる場合もあるが、その惑星系の中心にある星の質量によっては逆に惑星の形成を助けることがあるとする。そこで研究チームは今回、JWSTを用いて塵に囲まれたオリオン星雲の中にある惑星系d203-506のガスの量と温度を正確に測定し、同時にアルマ望遠鏡を用いて中心星の質量を見積もることにしたという。
その結果、惑星系から散逸していくガスの割合を正確に求めることに成功。オリオン星雲ではこの強い紫外線のため、d203-506においては木星のような巨大ガス惑星の形成は難しいだろうと推測されたとする。
今回の観測により、星のゆりかごである分子雲において大質量星がある場合、その近傍にある誕生したばかりの年齢百万年以下の若い惑星系の形成では、その大質量星が重要な影響を与えていることが明らかにされた。