【政界】「国の基本像を描け!」との国民の声 問われる国会議員の使命と役割

国民の政治不信が高まっている。「政治とカネ」の課題解決と同時に国の基本像を構築しなければならない。世界の地政学リスクが高まっている中での安全保障政策をどう構築するか。それと同時に、少子高齢化に伴う社会保障の財源をどう確保するかなど、国のカタチを決める議論が求められる。しかし、今の国会論議は低調。今秋の総裁選に向けて「ポスト岸田」を探る動きも見え隠れする。国の基本姿勢をつくり得ない政治とは何なのか─。

【政界】岸田派解散に他派閥も追随して大変動の予兆 「政治とカネ」でさらに問われる首相の指導力

新たな枠組み

「平成元(1989)年の政治改革大綱を想起し、『政治は国民のもの』との立党の原点に立ち戻り、我が党自らが変わらなければならない」

 自民党刷新本部が1月25日に決定した中間とりまとめの冒頭、そう記されていた。政治改革大綱は、値上がり確実な未公開株が政治家や官僚に譲渡されたリクルート事件を受けて自民党が決定したもので、近代的国民政党を目指し、「派閥解消」が盛り込まれていた。

 もっとも、こういった改革大綱を打ち出したものの派閥は解消されることはなく、その5年後の1994年、野党に転落していた自民党は党改革実行本部が派閥解消を再び打ち出した。それでも「政策集団」として事実上の派閥が続き、15年後の2009年に再び下野した際も党再生会議が派閥解消を表明している。

 それから15年が経った今年、「令和のリクルート事件」と呼ばれる〝裏金問題〟が自民党を直撃し、首相で党総裁の岸田文雄が岸田派(宏池会)の解散を表明。最大派閥の安倍派(清和政策研究会)のほか、二階派(志帥会)や森山派(近未来政治研究会)が派閥解散を決めた。しかし、党刷新本部は「いわゆる『派閥』の解消」を掲げてはいるが、「真の『政策集団』」として活動することを容認した。

 過去の歴史を踏まえたようだが、副総裁の麻生太郎が率いる麻生派(志公会)と、幹事長の茂木敏充が会長を務める茂木派(平成研究会)が存続する構えを見せていることに配慮したともみられている。新たな自民党の姿を示すことができるかは不透明で、中堅・若手議員の一部は不信感を募らせている。

 参院議員の青山繁晴ら有志議員は、政治刷新本部の中間とりまとめ公表に合わせ、派閥全廃の実現を目指す「政治(まつりごと)変革会議」を立ち上げた。国会内で開いた初会合には代理を含めて15人の衆参両院の国会議員が出席した。

 政治変革会議は、派閥の存在を「ボスが存在し、カネを作り、所属議員に分配し、閣僚や副大臣、政務官の政府人事を支配し、自民党の人事も隅々まで支配し、党中党の私的な集団でありながら、あたかも公的な存在かのように振る舞ってきた」(設立趣意書)と位置づけ、派閥パーティー開催を法律で禁止し、党本部による人事配置の実現を目指すという。

 ただ、青山は「派閥全廃のための会議ではない。新しい政治を作るために、従来の派閥を一旦なくすことが必要。それができる人は党総裁でもある首相しかいない」とも語る。カネと人事にとらわれない新たな枠組みづくりを、岸田が主導するよう促すのが狙いともいえる。

動き出す無派閥議員

 派閥解消が実現できなかったのは、派閥はリーダーを総理・総裁に押し上げるための集団という色合いが濃いからだ。実際、党内では従来の派閥ではないグループが活動を活発化させている。岸田内閣の支持率が低迷する中で、今秋の総裁選を睨んだ動きともいえる。

 保守系議員でつくる「保守団結の会」は2月8日、党本部で会合を開いた。団結の会は元首相の安倍晋三が顧問を務めたこともあり、安倍派の議員が多く参加してきた。この日は、かつて安倍派に所属していた無派閥の経済安全保障相・高市早苗が講師としてマイクを握り、経済安全保障上の機密情報を扱う資格を国が認める「セキュリティー・クリアランス」制度の重要性を語った。

 保守団結の会は今後、これまで各派閥が総会を開いていた木曜日の昼に隔週で会合を開く方針を確認したことから、保守系議員が党内での存在感を高めようとする「新たな派閥化の動き」と見方が広がった。総裁選に意欲を示す高市の基盤固めの狙いもあるとされる。

 さらに、無派閥の若手・中堅議員のグループ「無派閥情報交換会」も発足した。発起人には元首相の菅義偉に近い元官房副長官の坂井学や元幹事長の石破茂側近で財務副大臣の赤沢亮正ら約20人が名を連ねた。

 赤沢は「無派閥の我々がろくに声をあげないから派閥の弊害が増長している側面もある。自分たちの問題として、しっかり受け止めないといけない。無派閥の我々ができることがある」と語る。光の当たることが少なかった無派閥議員の結束と発信力の強化を目指す。

 菅や石破は参加していないが、かつて石破に近い議員が「無派閥連絡会」を結成し、石破派(水月会)に衣替えしたことがあり、報道機関の世論調査で首相候補として人気の高い石破を押し上げる狙いもありそうだ。石破は2月10日、総裁選に関し「期待がある以上、お応えはしたい」と鳥取市内で記者団に語っている。

 坂井も自身が主宰する無派閥議員グループ「ガネーシャの会」の活動を続ける方針だ。菅に近い議員十数人がこのグループに参加し、週1回の会合を重ねてきた。「菅グループ」とも呼ばれ、「事実上の派閥」とされたため、一時はグループ解散を検討した。それでもグループの在り方を検討した上で活動を続け、存在感を維持することにしている。

 無派閥の元総務相・野田聖子は「派閥の支援がなければ総裁選に出られないという常識が変わった」と歓迎。これまで総裁選出馬に必要な20人の推薦人を集めることに苦労してきただけに、「今年は最初で最後の大きな勝負に出る年だ」とも語っている。

派閥から政策集団へ

 一方、存続する方向の麻生派と茂木派は総裁選に向けた戦略の練り直しを迫られている。

「変えるべきものは何か、変えてはならないものは何かについて今しばらく時間をかけ、しっかり考えをまとめていきたい」。麻生は2月1日に国会近くの麻生派事務所で開いた総会で、そう語った。麻生派はこの日、情報の交換や伝達、共有をするため、従来通り週1回の会合を続けていく方針を確認した。

 麻生派は退会者が元防衛相の岩屋毅にとどまっている。ただ、2021年の前回総裁選に麻生の反対を押し切ってデジタル相の河野太郎が立候補し、麻生派として支持の一本化を見送らざるを得なくなった苦い経験がある。河野は自身が主宰する勉強会「火曜会」を引き続き開催する方針とされ、今秋の総裁選への出馬も伺っている。

 そうした中で麻生は1月下旬、福岡県内での講演で、外相の上川陽子について就任直後の国連総会で個別会談を数多くこなしたことなどに触れ、「あんなことができた外相は今までいない。新しいスターがそこそこ育ちつつある」と手腕を高く評価した。

 講演は上川の容姿に関する発言が波紋を広げたが、他の議員を褒めることの少ない麻生が、上川を持ち上げたことから永田町では「麻生派も一枚岩になれるか微妙な時期だし、総裁選に向けて新しい〝カード〟を握ろうとしたのではないか」といった憶測を呼んだ。

 茂木派も麻生派と同様に「政策集団」として存続する方向になった。「資金力と人事への影響力で人数を増やすという『数の力』の派閥はなくなる。解散も解消もあまり違いがない」。茂木は民放BS番組で強調している。

 ただ、党選対委員長の小渕優子が茂木派を退会したのに続き、「参院のドン」と呼ばれた元官房長官・青木幹雄の長男で参院議員の青木一彦や参院議員会長の関口昌一らが相次いで退会し、茂木の求心力低下が指摘されている。

 茂木はBS番組で、総裁選について「派閥やグループに依存した候補は勝てない」「これから群雄割拠の時代に入る」などと語った。自身は総裁選の対応について多くを語らず、党内の様々な動きを見極める構えのようだが、出馬への道筋は描けていない。

急がれる党内議論

 小渕や関口が茂木派を抜けた理由は、1989年の政治改革大綱に「党幹部や閣僚の派閥離脱」が明記されていることだった。茂木は、幹事長として「政治改革大綱を想起する」ことを掲げた政治刷新本部の中間取りまとめに沿って党内議論を加速化させるため、刷新本部にワーキングチーム(WT)を設置した。

 WTは①政治資金に関する法整備の検討②党機能・ガバナンスの強化③党則などの見直し─の3つからなる。ここでは会計責任者らが違反をした場合には、国会議員の責任も問う「連座制」導入の是非が焦点となりそうだ。厳しい政治資金問題の再発防止策が打ち出せず、派閥に頼らない人事、総裁選びを実現させる新しい体制が築けなければ、政治の信頼回復は遠のくばかりだ。

 三人寄れば派閥ができる─。政治不信を払拭するための「処方箋」づくりに時間をかけていては、秋の総裁選に向けて様々な思惑が渦巻く中で、旧態依然とした派閥がゾンビのようによみがえってくるだろう。

「国の基本像を描け!」─。ある経営者は足元の政治情勢を受けてこう訴える。米中対立が続き、米国大統領選挙の行方次第では国際情勢も混乱が予想される。また、国内では肝心の経済再生をはじめ、持続的な賃上げやデフレ脱却、社会保障制度改革など政策の根本課題の解決は先送りされたままだ。岸田や茂木だけでなく、議員一人ひとりの覚悟が問われている。

(敬称略)