ルネサス エレクトロニクスは2月29日、独自AIアクセラレータである「第3世代DRP-AI(DRP-AI3)」を搭載することで、電力性能10TOPS/Wならびにファンレス状態で最大80TOPSのAI推論性能を実現する14nmプロセス採用の次世代ロボティクス向けハイエンドMPU「RZ/V2H」を発表した。

同社のRZ/VシリーズはビジョンAIの処理に強みを持たせたMPUで、最新世代となるRZ/V2Hの発売で1TOPS~80TOPSまでのAI推論性能レンジをカバーできるラインナップが揃ったこととなる。

  • ルネサスのビジョンAI向け64ビットRZ/Vシリーズラインナップ

    ルネサスのビジョンAI向け64ビットRZ/Vシリーズラインナップ(2024年2月29日時点) (資料提供:ルネサス、以下すべてのスライド同様)

その開発コンセプトは、低消費電力で高いAI性能と高速リアルタイム制御を1チップで実現するというもの。同製品では、DRP-AIと従来のDRP、そしてマルチコアCPUを組み合わせて、処理ごとに適したプロセッサに振り分けることで、この要件を満たしたとする。具体的には、大まかにはLinuxベースの汎用的な処理をCortex-A55×4コア(1.8GHz動作)、Free-RTOSを用いたリアルタイム処理をCortex-R8×2コア(800MHz動作)、サブCPUとして搭載したCortex-M33×1コア(200MHz動作)でIO周りの処理をそれぞれ担当するほか、DRPで画像認識や運動力学計算などを担当、そしてDRP-AIでAIの推論を担当するといった振り分けで、1チップで次世代ロボティクスの制御で必要となる高性能ビジョンAI推論と高速リアルタイム制御を実現可能としたとする。

  • RZ/V2Hの各プロセッサの役割イメージ

    RZ/V2Hの各プロセッサの役割イメージ。各プロセッサが得意な処理を担当することで低消費電力かつ高AI性能・高速リアルタイム処理を実現した

また、従来のDRPについてもOpenCVの処理をCPUに比べて最大16倍高速化するOpenCVアクセラレータを開発、搭載したとするほか(DRPライブラリは無償提供される)、AIアクセラレータ部については、性能指標として「ResNet-50」を830fpsで処理できることも確認しているともしている。

  • 従来型のDRP部も改良

    従来型のDRP部も高速処理を可能にするためのDRPライブラリの提供などがなされる

さらにDRP-AIとしても、これまでも対応していたFP16のみならず、INT8にも対応。効率的な枝刈り技術と組み合わせることで、従来のDRP-AI(RZ/V2LおよびRZ/V2Mに搭載された第1世代DRP-AI)と比べて10倍の電力効率を実現したとする。

  • AI全体での高速処理が可能に

    DRP-AIによるAI処理のみならず、前段・後段のAIアクセラレータが処理を担わない部分についてもDRPが高速処理を担うことで全体としての高速処理が可能になるという

なお、同製品はすでに量産が進められており、サンプルの出荷も開始しているほか、評価キット「RZ/V2H Quad-core Vision AI MPU Evaluation Kit(型番:RTK0EF0168C04000BJ)」も提供済み。評価キットの価格は同社Webサイトのダイレクト価格で1176ドル(2024年2月29日時点)としており、AIアプリケーションの短期間開発に向けた各種ユースケースに応じた学習済みモデルライブラリ「AI Applications」や、AIを使ったユーザアプリケーションの開発の短期間化を可能とする「AI SDK(Software Development Kit)」を組み合わせることで、AIに関する深い知見がなくても、AIアプリの早期評価が可能になるとしている。このほか、同社のパートナーであるAMATAMAからRaspberry PiフォームファクタのSBC(Single Board Computer)「Kaki Pi(カキパイ)」も2024年4月下旬ころより提供される予定だという(販売はユリ電気商会が担当)。

  • 競合比較
  • 競合比較
  • 試作ボードに搭載されたRZ/V2H(左)とGPUボード(右)での発熱比較。GPU側はヒートシンク+ファンでようやく50℃超となっているが、RZ/V2Hはチップ単体で同程度の熱量。実際に触ってみたが、指先がぬるいと感じる程度で同等性能の処理を行っていた

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  • 評価キットの実物。すでに提供開始済みで、入手可能な状態となっている

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  • Raspberry Piフォームファクタの「Kaki Pi」。読み方はカキピーではなくカキパイとのこと