ソフトバンクは2月26日、ESG(環境・社会・ガバナンス)への投資戦略に関する説明会を開き、同社の取り組みを説明した。
同説明会に登壇したソフトバンクの宮川潤一社長は、「社会の重要課題を特定し、事業を通じて対応していく。そして、デジタル化社会の発展に不可欠な次世代の社会インフラを構築し、持続可能な社会の実現と企業価値向上の両立を目指す」と、同社のESG経営の考え方を説明した。
2030年に必要な電力は「大型火力発電6基分」
昨今、米OpenAI(オープンAI)が提供する「ChatGPT」を皮切りに、さまざまな生成AIが次々に登場している。その一方で、膨大なデータを生成・処理するために必要な電力が急増している現状もある。経済産業省によると、2030年の日本のデータ処理需要は1960エクサ(1エクサは100京)FLOPS(コンピュータの処理能力の単位)と、大型火力発電6基分に相当する電力が必要だと推計されている。
現在の日本のインフラ構造においても課題があると宮川氏は指摘する。「沖縄から北海道まで再生可能エネルギー(再エネ)の導入ポテンシャルは分散されている一方で、電力の消費は都市部に集中している。これは海底ケーブルを陸揚げする物理的構造によるもの。ソフトバンクは北海道や九州といった、再エネの導入ポテンシャルが高い地域にデータセンターを分散して配置する『分散型AIデータセンター』の構想を描いている」(宮川氏)
同社は2023年11月、東京や大阪に並ぶ新たな拠点として、北海道苫小牧市にデータセンターを新設することを発表した。次世代社会インフラ構想の要となる「Core Brain(コアブレイン)」として構築し、将来的に敷地面積が国内最大規模という70万平方メートル、受電容量が300MW超まで拡大する見込み。
生成AIの開発およびその他のAI関連事業に使用する。また、北海道内の再エネを100%利用する地産地消型のグリーン・データセンターとして運用を行う予定だ。
通信事業で使う約20億Kwhを再エネ化
ソフトバンクは温室効果ガス(GHG)の排出削減について、2030年までに上流と自社での排出量(スコープ1・2)をゼロに、そして2050年までに下流を含めたサプライチェーン全体(スコープ3)でネットゼロを達成することを目指している。それぞれ年に4.2%以上、2.5%以上削減していく計画で、「AIによるデータ処理需要に対応するだけでなく、地球温暖化への対策も同時に進めていく」(宮川氏)という。
具体的には、全社で使用する電力を再エネ化し(2022年度の実績は42%)、AIやIoTを駆使してスマートオフィスで省エネルギー化を図っている。竹芝の本社ビルでは従来(汐留)のビルに比べて、消費電力を6~7割削減できたという。
CSR本部 本部長 兼 ESG推進室 室長の池田昌人氏は、「東京都23区のビルすべてに約6割の省エネを展開できた場合、1年あたり51億kWh、電気代換算すると約1370億円分削減できる。これは約127万世帯分に相当する」と、省エネのインパクトを強調した。
さらに同社は、大容量・高エネルギー密度の次世代電池の実用化に向けた研究開発を進めるほか、子会社を通じて発電事業者と20年におよぶ再エネの長期調達契約を結ぶことで、再エネの使用率を高めている。通信事業で使用する電力量約20億kWhを再エネ化し、電気代高騰の影響を受けにくい事業構造へ転換していく考えだ。
約500平方メートルの植樹で土地開発の影響を軽減
スコープ3における削減については、環境省と共同で策定したロードマップ通りに進めていく。まずはサプライヤー向けに対応を促進し、中長期的には燃料や輸送・配送方法などの見直しを進める。
また、GHG削減・吸収量を取引する「カーボンクレジット」の取り組みも積極的に行うとのこと。「2050年はまだまだ先。闇雲に何か打ち手を考えるのではなく、しっかりと計画を立てて、取引先や関係者と議論し意識を合わせていく」(池田氏)
ソフトバンクはGHGの削減量だけでなく、大気や水、動植物などの自然資本を重要事項と捉えるネイチャーポジティブな取り組みも行っている。「当社の使命であるライフラインの維持を実現するうえで、やむを得ず自然保護区で基地局などの設備を建設するケースもある」(池田氏)とし、2023年度は自然保護区での開発面積(492平方メートル)以上の植樹を行った。
「当社のESG経営については、国内だけでなく海外からも評価してもらっている。これらの活動はすべて経営理念に則ったもの。世界で最も必要とされる会社を目指し、引き続き邁進していく」(池田氏)