三菱電機は、同社の「情報技術総合研究所」内に設置され、2023年度省エネ大賞も受賞したZEB(Net Zero Energy Building)関連技術実証棟「SUSTIE(サスティエ)」を報道陣に公開した。今回は、その内部のさまざまなな取り組みを実際に体験した模様をお届けする。
新たな取り組みを試す場所である情報技術総合研究所
“SUSTIE”という名称は、「Sustainability」と「Energy」を組み合わせた造語で、省エネと健康性・快適性を最高レベルまで高め、研究・実証していくオフィスという意味合いを柔らかい語感で表現したものだという。
SUSTIEを含む情報技術総合研究所について同社は、三菱電機グループを支える情報技術の“源泉”であり、コンセプトである「最先端の情報通信技術で想像を超える未来をかたちに」を目指した研究開発の場であるとしている。
例えば第3世代携帯電話の標準暗号へ採用された「KASUMI」など暗号に関連した事業や、リアルタイムな運行情報などの旅客案内情報を提供する列車内映像情報システム「トレインビジョン」、2015年に運用寿命を迎えた「ひまわり7号」の気象ミッションを引き継ぐ静止気象衛星「ひまわり8・9号」のような宇宙事業など幅広い事業が展開されている。宇宙事業はひまわり8・9号による観測データが日々の天気予報に活用されているのはもちろんのこと、直近では2024年1月に月着陸を実現した実証機「SLIM」の着陸機のシステム開発・製造を担当したほか、運用支援も実施していることなどでも知られている。
SDGs実現に向けたZEB関連技術実証棟実証棟「SUSTIE」の技術的特徴
そうしたさまざまな取り組みが進められている情報技術総合研究所内にある“SUSTIE”では、同社が目標としている「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成に向けた実証実験が日々行われており、省エネ技術の開発加速の後押しをしているという。
SUSTIEでは、同社製の高効率機器の導入による省エネ化の実現や、太陽光を中心に自然風などの自然エネルギーを活用することによるZEBの推進が図られており、快適な室内環境を構築することと同時に、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指す運用が行われているとのこと。現状、余った電力などは情報技術総合研究所内の研究開発に携わる棟ですべて活用されているが、今後は蓄電池の導入なども考えていると担当者は語っていた。
さらに、ビル・シミュレーション技術も導入されており、仮想空間にSUSTIEのシミュレーションモデルを構築し、ビル設備の動作を実世界のビルと同じように配置して模擬することで、消費エネルギーと快適性の高精度予測を実現しており、ZEB運用の省力化を可能としているともする。
また、実証棟内には多数のセンサも設置されており、ビル内の空調・照明・入退室などの各設備を監視・制御するビル管理システム「Facima(ファシーマ)」ならびにビル統合ソリューション「BuilUnity(ビルユニティー)」と連携させることで、これらセンサが取得したデータを管理し、ZEB関連技術の実証に活用しているという。
健康性・快適性の追求もぬかりのないSUSTIE
このほかSUSTIE内には、省エネと快適性を両立するオフィスにするべく「集中」「リラックス」「対話」とテーマ分けがなされた部屋も用意。個々の働き方に適した執務空間を自由に選択することができるように配慮が施されている。例えばリラックスの部屋は掘りごたつ式の空間で靴を脱いだ状態で作業ができるなど、従来の働き方では考えられないような作業スタイルも導入されているとのこと。
加えて、光が届きにくい会議室に対しては室内空間でありながら奥行き感のある青空と自然な光を表現できる「青空照明 misola(みそら)」が導入されているほか、室内の在室人数情報を用いて換気量を制御する「入退室換気連携システム」、スマートシティ・ビルIoT プラットフォーム「Ville-feuille(ヴィルフィーユ)」を活用したエネルギー管理などの実証を通じて、さらなる省エネと快適性を両立する技術の確立も目指しているという。
なお三菱電機では、このSUSTIEの運用を進めていくことで、今後もZEBに加えて生産性や快適性、利便性、事業継続性などの価値を、ビルのライフサイクルにわたって維持するサービスも含めて高度化する「ZEB+」の考えに基づき、ビルに付加価値を提供する技術実証を継続していきたいとしている。