サイボウズは2月24日、オンラインで決算発表と事業説明会を開いた。同社 代表取締役社長の青野慶久氏がプレゼンテーションを行った。
同社ではグループウェアの「サイボウズ Office」と「Garoon」、ローコード・ノーコードによる業務システム構築プラットフォーム「kintone」、メール共有システム「Mailwise」の4つのプロダクトを軸にクラウドサービスを提供している。
同社初のARRなどSaaS経営指標を公開
2023年12月期の連結売上高は前年比15.2%増の254億3200万円、連結営業利益は同454.9%増の33億9400万円となった。青野氏は「売上高、営業利益ともに過去最高となった。2021年、2022年と比較して広告宣伝費は減少したものの、グローバルを見据えた新規事業の創出を目指し、長期的な研究開発を活発化しており、2022年と比較して3倍以上となる8億8900万円を投下した」と振り返った。
広告宣伝投資の効果については、過去3年間で「kintone」を中心とした認知拡大を目的に広告宣伝を強化し、認知度は2020年から12ポイント上昇の31%となり、青野氏は「会社名よりkintoneの名前の方が知られている」と実感していた。今年も継続して、製品価値の浸透と売り上げ拡大に向けた投資を予定している。
昨年から公表を開始した各サービスの売上高は、kintoneが前年比24.9%増の130億1200万円となり、契約中企業は3万2800社、月平均で600社以上が導入している状況だ。
また、サイボウズ Officeは同4.4%増の53億1200万円、Garoonが同9.7%増の50億600万円、Mailwiseは同16%増の7億8700万円となった。連結売上高のうち、クラウドの売上高は前年比19.5%増の222億8300万円となり、売上比率は87.6%と堅調に推移。
今回からSaaS経営指標として、ARR(Annual Recurring Revenue:年間経常収益)やARPA(Average Revenue Per Account:1アカウントあたりの平均売り上げ)を公表した。連結売上におけるARRの成長率は前年比17.5%増の240億1800万円だったが、初の20%を割り込む数値となり、低下傾向になっている。
ARPAは全社基盤での採用が前提のGaroonの単価は11万6700円と高いものの、製品売り上げをけん引するkintoneは3万4100円と低く、底上げが課題となっている。青野氏は「kintoneは一部のみでの利用が多く、今後は特定部署のみならず組織全体への導入を目指す」と力を込めていた。
グローバルは厳しい状況だが今後に期待
こうした状況をふまえた施策として「サイボウズNEXT」と銘打ち、kintoneで「メール共有オプション」を年内にリリースを予定。さらに、今夏には「全社導入ライセンス」の販売開始を予定しており、アプリ上限数(現状は1000)の拡張について相談可能とし、専用機能・APIの提供、ポータルや検索強化、アプリ分析など専用プラグインを提供する。
そして、エコシステムの拡大に向けてパートナービジネスにも引き続き注力する。2023年の国内クラウド売上高のうち、パートナー販売は62.9%を占め、2023年12月末時点でのパートナーは450社、連携サービスは350以上に達している。
6年目に突入した地方銀行との協業では地銀の経営ノウハウと、同社のICT支援で地方中小企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援しており、地銀との協業は全国20行以上、600社がサイボウズ製品を導入し、コンサルティングの実績も着々と積み上がっている。
さらに、kintoneユーザーだった企業との共同開発やDX人材育成などのパートナーになる事例もあり、パソナとはクラウド型人事管理アプリを開発。2022年にリコーとともに、kintoneを独自カスタマイズで開発した「RICOH kintone plus」は導入企業が1000社を突破しているという。
一方、グローバル展開では米国が前年比1.2%増、中華圏が同6.2%増、東南アジアが同8.3%増の成長となった。青野氏は「戦略の変更もあり、なかなか厳しい状況ではあるものの、それぞれの市場でなんとか売り上げを伸ばしている」と語っており、米国ではリコーの販売ネットワークを使い、RICOH kintone plusの拡販を進めていく。東南アジアに関しては、富士フイルムビジネスイノベーションなどのパートナーとの連携を強化していく。
また、kintoneがスペイン語にも対応したことから、リコーとの協業で今年1月から中南米向けにRICOH kintone plusをリリースするなど、今後もグローバル展開を積極的に進めていく方針だ。そのほか、2011年のクラウド事業開始以来、自社でクラウド基盤の開発と運用を継続しており、2025年をめどに自社開発の新しいクラウド基盤「NECO」に移行を進めている。
2024年12月期の業績予想は?
このような施策に継続して取り組み、2024年12月期の業績予想は連結売上高が2023年比12.9%増の287億3000万円、営業利益が同8.7%減の30億9700万円、経常利益が同12.2%減の31億4200万円、当期純利益が同18.4%減の20億2800万円を計画し、売上高以外は減益を見込んでいる。これには2つの要因があり、1つは積極的な人材採用に伴う人件費の増加、もう1つは広告宣伝費用だという。
全社スローガン(2023~2025年)は、昨年に引き続き「25BT」(2025 and go Beyond with Trust)とし、“3年後の2025年を1つのマイルストーンとし、さらにその先の見据えた取り組みを、信頼を大切に進めていこう。”としている。
最後に青野氏は「前述したように一番大きな課題は特定部署に導入しているものを組織に横展開し、全社のDX基盤にしてもらうための取り組みを進めていく。積極的な投資でさらなるクラウドビジネスを拡大していく」と結んだ。