神戸大学は2月22日、九州南方の沖合40kmほど(薩摩硫黄島および竹島が含まれる海域)にある巨大海底カルデラ「鬼界カルデラ火山」周辺の海底が、同火山の火砕流を起源とする噴出物で覆われていることを発見し、同海域の調査や採取試料の分析の結果、同噴出物は約7300年前に起きた「アカホヤ噴火」によって発生した火砕流が海中に突入し、希薄な密度流として4500km2以上の海底に広がったものであることが判明したことを発表した。
また、火砕流がもたらした噴出量は、71立方km以上に及び、広域火山灰で堆積した噴出量と合わせると332~457立方km以上と推定され、同噴火が「完新世」(約1万1700年前~現代)における最大の火山噴火だったことも併せて発表された。
同成果は、神戸大 海洋底探査センターの清水賢研究協力員、神戸大大学院 理学研究科 惑星学専攻/海洋底探査センターの島伸和教授、同・中岡礼奈助教らの研究チームによるもの。詳細は、火山学と地熱研究に関する全般を扱う学術誌「Journal of Volcanology and Geothermal Research」に掲載された。
巨大カルデラ噴火による火山噴出物の量は甚大で、火砕流や火山灰として広域にもたらされる。これまで日本において発生した巨大カルデラ噴火の1つに、鬼界カルデラ火山がある。鹿児島県の南およそ40kmほど、薩摩半島と屋久島のだいたい中央付近にあり、周囲を海に囲まれた巨大カルデラである同火山は、幾度か噴火したことがわかっており、およそ7300年前のアカホヤ噴火が引き起こした火砕流は、海を渡って南九州の縄文文明に壊滅的な被害を与えたという。
しかし、海中にも流入したはずの噴出物がどの程度存在しているのかは確かめられておらず、噴火の規模や噴出物の運搬過程は不明だったとのこと。巨大カルデラ火山は繰り返し巨大噴火を引き起こすが、現代文明ではまだこのような大規模噴火を経験したことがない。現代においてこのような大規模噴火が起これば、その火砕流と火山灰は文明や社会を脅かすほどの脅威となるとされており、詳しく調べていく必要がある。
そうした中で神戸大 海洋底探査センターは、鬼界カルデラ火山を対象として、その実態を把握するために2016年から調査を続けている。今回の研究では、海底に堆積している噴出物を調査することで、巨大カルデラ噴火の噴出量の推定や、海中における噴出物の運搬機構の解明を試みたという。
今回、神戸大 海事科学研究科の練習船「深江丸」を用いた探査航海で、海底堆積物の層構造を可視化する「反射法地震探査」と、海底から採取された堆積物の化学分析が行われた。その結果、鬼界カルデラ火山周辺の火山噴出物の分布が判明。反射法地震探査によれば、海底堆積物の最上層は、河川を起源とする堆積物とは異なる特異な岩相が示されていることがわかった。また、同層から採取された堆積物中の火山ガラスの化学分析を行ったところ、アカホヤ噴火の噴出物であることが同定された。
アカホヤ噴火の噴出物は、鬼界カルデラ火山周辺の海底に広く分布し、カルデラからの距離に対して指数関数的に層厚が減少することが示され、海底の凹凸を埋めるように堆積していることが明らかにされた。これは、アカホヤ噴火の噴出物(火山灰、火山岩片など)である火砕流が海中に突入した後に海水と混合し、希薄な密度流が形成されたことが示唆されているという。研究チームは、噴出物がこの密度流として海中を40km以上を移動しながら、海底に堆積していったことが考えられるとしており、この結果は、火砕流が十分な水深のある海中に突入し、その噴出物が海中でどのように振る舞うのかを初めて示した重要な知見とする。
また、巨大カルデラ火山の火砕流がもたらした噴出物の量については、堆積物の正確な分布と厚さの変化から見積もることに成功。海中に堆積した噴出物は、陸上に堆積した噴出物と比べて保存性が良く、世界の巨大噴火研究の中でも、特に精度良く噴出量が見積もられた例となったとのこと。また見積もられた噴出物の総量は、アカホヤ噴火が完新世において、世界最大の噴火であることが示されているとしている。
今回の研究で得られた噴出量の推定結果は、繰り返し発生する巨大噴火の地下マグマの蓄積と放出に関するプロセスや、地球表層に表れる巨大な陥没構造であるカルデラ形成のメカニズム解明に向けた貴重データとなるという。
なお鬼界カルデラ火山は、約7300年前のアカホヤ噴火よりも前、約9万5000年前と約14万年前にも巨大噴火を起こしたことがわかっていることから、今後研究チームは、それらの噴火量を見積もると同時に、地下深部を対象とした大規模な物理探査により、現在の地下マグマを可視化することと併せて、それらのプロセスやメカニズムの解明も目指すとしている。