本コラムの第19回「経産省EC市場調査から見えてくる真実」にてECモールのGMV(市場規模)が伸び、その反面、自社ECのGMVは減少していると述べた。
これを読んだ周囲の方々からは、「そうなのか!」といった驚きの声や、確かに現状から想像つくといった納得の声など、さまざまなコメントをいただいた。推計方法の違いで多少のブレはあるかもしれないが、どうやら自社ECの減少は間違いなさそうだ。これはインパクトのある話なので、あらためて考察したい。
2022年のEC市場全体のGMVは13兆9997億円。そのうちAmazon、楽天市場、Yahoo!ショッピング、au PAY マーケット、Qoo10、ZOZOTOWNの合計GMVを再計算したところ10兆7000億円となった。自社ECは差し引き3兆3000億円となる。2021年のEC市場全体は13兆2865億円でECモールは9兆3000億円なので、自社ECは4兆円となる。つまり1年間で自社ECは4兆円から3兆3000億円へと7000億円も減少したのだ。
こうなると自社ECが伸びず困っているとの声が多く聞こえてきそうなのだがそうでもない。その理由はECモールへ掛け持ち出店・出品している事業者が多いからだろう。本紙の「2023年版ネット通販売上高ランキングTOP520」をもとに、自社ECのみ実施している企業数をカウントすると僅か27.9%。残り72.1%はいずれかのECモールを活用しているわけだ。つまり売り上げが自社ECからECモールにシフトし、トータルでは売り上げが落ちていない事業者は多いと思われる。
<モール比率80%超へ>
筆者試算のECモール比率は2020年から2022年にかけて65.9%、69.7%、76.4%と拡大している。コロナ禍でEC市場は活況を呈したが、収束後はリアル回帰によって、その反動がきていることは既知の通りだろう。しかし、そのような状況下でもECモールのGMVは着実に伸びているのだ。
消費者の購買行動の観点で捉えると、現在買い物する場合はリアルか、Amazon、楽天市場などのECモールかといったシンプルな二択のように筆者には見える。
このペースだと2023年のECモール比率は80%前後となる可能性が高そうだ。この事象をどう思うかについてはそれぞれ置かれている立場によって異なるだろう。
EC市場全体の観点では、ECモールだろうが自社ECだろうがGMVが伸びることは喜ばしい。
しかし、さすがにECモール比率が80%を超えて、それ以上伸びるとしたらどうだろうか。筆者はバランスの点が気にかかっており、ECモール同様に自社ECについてもがんばってGMVを伸ばしてほしいと思う。
自社ECの縮小で困るのはカート系の事業者だと思う。ところが各社各様の取り組みのためエネルギーが分散している感が否めない。ECモールが規定演技なら自社ECは自由演技。できる幅が広いことは周知のとおりだ。
リテール市場全体の活性化のために自社ECが本来的に担う役割は大きいと見る。一案に過ぎないがカート系事業者が集結して競合部分と協業部分を切り分け、後者については一体となって自社ECを盛り上げる妙手を打ってほしいと思う。