花王は2月19日、皮脂中に含まれるRNA(皮脂RNA)の発現情報を類似度で分類し、皮膚機能にとって重要な遺伝子のRNA発現量が異なる肌タイプが、少なくとも2種類存在することを発見し、その肌タイプは年齢や主観的な肌質(乾燥肌・脂性肌など)とは関連のない独立した分類であることも見出したと発表した。
同成果は、花王 生物科学研究所、アイスタイルの共同研究チームによるもの。詳細は、2023年12月5~7日にさいたま市で開催された「第1回日本化粧品技術者会学術大会」にて口頭発表された。
細胞内では日々、生命活動に必要なタンパク質が生産されている。どのようなタンパク質を生産するのかという情報はDNAに記されているが、DNAから直接タンパク質を作るのではなく、目的のタンパク質を生産するのに必要な情報だけをまずDNAからRNAに転写し、そのRNAをもとにしてタンパク質が生産される。そのためRNAはDNAとタンパク質をつなぐ橋渡し役といえる。
そのRNAに関して、花王は2019年に皮脂中にも存在していることを発見したと報告している。このことを利用して開発されたのが、あぶら取りフィルムで肌を傷つけることなく顔の皮脂を採取し、そこからRNAを抽出して網羅的に解析する「皮脂RNAモニタリング技術」だという。同じ核酸でも、DNAは個人ごとに固有の情報であり、一生変化しないが、RNAは体調や食生活、運動、ストレス、紫外線といった環境要因によって日々変化することから、その時々の肌状態を知るのに有用であるといえるという。
皮脂RNAモニタリング技術を活用し、研究チームは2022年春から、皮脂RNAの発現情報が似ている人をグループ分けし、好まれる化粧品の傾向を調べることにしたとする。この取り組みの狙いは、RNAをもとにした肌タイプという1つの客観的な指標を用いることで、個人個人の肌に合う化粧品を効率的に選択し、最適なスキンケアへと結びつけることだという。今回の研究では、そうした取り組みの基盤となる皮脂RNAの遺伝子発現の特徴をもとにした肌分類の開発、およびその特徴の一端を解明するための検討を行うことにしたとする。
今回の研究では、2019年1~2月に20~59歳の女性105名から採取した皮脂RNAから約2300種のRNA発現情報をもとに、「階層クラスタリング解析」(データの要素間で最も似ている組み合わせから順番にグループ化し、それを観測値すべてがひとまとまりになるまで繰り返すことでグループ分けを行う手法)が実施された。その結果、RNA発現の類似度に基づいた2つのクラスタが存在することが確認できたという。
それぞれのグループに特徴的な遺伝子の機能を明らかにするため、グループ間で皮脂RNAの発現量に明確な違いが認められた662種の遺伝子が注目され、「エンリッチメント解析」(着目した数多くの遺伝子中に、特定の機能を担う遺伝子がどの程度多く含まれているか、遺伝子群の特徴を解析する手法)が行われた。
その結果、グループ1で高発現するのは「免疫応答」などの皮膚免疫機能を担う遺伝子で、グループ2で高発現するのは「角化」などの皮膚バリア機能を担う遺伝子であることが確認されたとする。また、これら2グループは年齢の偏りが認められず、実験参加者自身が申告した肌質(脂性肌・乾燥肌・混合肌・普通肌)とも関連のない、独立した指標であることが示唆されたとする。さらに同じ人であっても、採取タイミングによって分類されるグループが変化するケースがあることも確認されたとした。
今回、皮脂RNA発現情報の類似度によりクラスタ分類が実施された結果、「免疫」や「角化」などの皮膚の機能に重要な遺伝子の発現を特徴とする、少なくとも2つの肌タイプが存在することが突き止められた。皮脂RNAモニタリング技術を活用したこの分類は、生体分子情報に基づいて肌を客観的に理解する「肌の分類指標」として利用できる可能性があるという。
研究チームでは、引き続きこの分類軸に関する知見を深めていくと同時に、RNA発現情報に基づく肌タイプ分類を広く活用することで、ビューティ領域の新たな体験価値を創出することを目指していくとしている。