情報検索だけでなく、ネット証券や銀行、Eコマースなどのサービスといった「モノ」に変化を与えたWeb1.0、ブログやSNSを通じて個人が自由に情報発信でき「ヒト」の可能性を広げたWeb2.0。そしてWeb3.0(Web3)は分散型台帳であるブロックチェーンの構築により、ビットコインなどの暗号資産が躍動し、「カネ」の革命が起こっている。今後、証券や保険、ローンといった分野では次々に目新しい商品・サービスが登場していくだろう。

Web3技術を用いたNFT(非代替性トークン)やST(セキュリティトークン)を利用することで、デジタル資産や現物資産の実在性を証明することが可能となる。この特色は、地方創生策とも相性が良い。地域の特産品や文化、自然や建物などをトークン化し、資金調達につなげた成功例に触れながら、可能性を提示していきたい。

ファントークン、NFTから見る成功のカギ

限られたコミュニティにおけるトークンの活用というと、サッカークラブにおけるファントークンの例がある。ファンはデジタル会員証や権利証を保有することができ、企業側は資金調達の手段としても活用できる。日本では湘南ベルマーレやFC琉球が導入し、ジャスミーでもサガン鳥栖のファントークンに取り組んでいる。

  • ファントークンの特徴

    ファントークンの特徴

ファントークンを成立させるには、継続的なファンとのコミュニケーションが必要だ。サガン鳥栖の場合はコミュニティ型を採用し、独自のグッズやスタジアムでのイベントなどを展開することでエンゲージメントの構築を重点的に担っている。トークン化によるデジタルデータとしての資産価値に加え、複製不可といった特長のファントークンはネット上だけでの利用にとどまらず、ユーザーのリアルの生活にも影響を与えると言えるだろう。

NFTにおいても、同じことが当てはまる。例えば、Crypto Ninja Partners(CNP)などジェネラティブNFTの盛り上がりは、プログラムで自動生成され、偶然的な要素も取り入れられた“代替不可能”で“唯一無二”という一品ものを手にするという満足度が高い。当初は破格の値段で取引されることもあったが、現在は数万円程度のNFTも多く、手が届きやすくなっている。

NFTを地域おこしに活用した最も有名な事例は、新潟県長岡市山古志地域の「Nishikigoi NFT」だ。海外でブームが続く錦鯉の発祥地であることをいかし、ジェネラティブアートを発行。2021年2月の開始からわずか2カ月で約600万円を集めたといわれている。デジタル住民票の役割も兼ねており、デジタル村民は2023年9月時点で1600人超と、実際の人口の約2倍に。地域の特色とNFTの特性がマッチしたほか、専門性を持った人材による各種サポートの功績が大きい。

「夕張メロンNFT」プロジェクトもよく知られている。JA夕張市公認の夕張メロン「デジタルアンバサダー」になれる会員証NFTが発行され、夕張メロン1玉を受け取れる権利も含まれる。売る側にとっても販売先があらかじめ確保できるメリットは魅力的だ。

こういった資金調達の手段は、これまでクラウドファンディングが主流だった。しかし、15%程度の手数料の発生などコスト負担も実は大きい。その点、NFTの場合は1枚数百円程度と費用が抑えられ、コスト削減に取り組む地方自治体にとっても導入しやすい。ふるさと納税の返礼品としても活用されており、多様化も進んでいる。

ブロックチェーンを駆使しトレーサビリティを実現

Webでのやりとりで脅威となるのが「データの改ざん」だ。特に2010年代には半導体デバイスの偽造品が数多く出回った。半導体模倣品の市場流出削減策として、業界団体SEMIの日本地区が主流となり進めているのが、ブロックチェーンを使ったトレーサビリティの規格化だ。

ブロックチェーン技術により取引履歴が格納されたブロックをハッシュ化し、そのハッシュ値を次のブロックに書き込むことで、取引履歴がつながりトレーサビリティが可能となっていく。製造から販売経路に至るまでをボーダーレスで経緯を終えるのも大きなメリットだろう。

地方産業においては、日本酒の不正流出防止にも活用されている。ラベル自体が電気的なものになっており、開封されると電線が切れて開封されたことがわかる仕組み。どこの酒造で作ったのかがわかることはもちろん、開封証明もされる。中身のすり替えの心配もない。

ブロックチェーンのトレーサビリティは、近年、注目を浴びているカーボンクレジットにも応用が期待される。カーボンクレジットは企業が森林の保護や植林、省エネルギー機器導入などを行うことで生まれたCO2などの温室効果ガスの削減効果(削減量、吸収量)をクレジット(排出権)として発行するもの。

しかし、現状では最初にクレジット発行の承認をもらった後、実際の削減効果のデータを記録していることは少ない。カーボンクレジット市場の活性化をめざすナチュラルキャピタルクレジットコンソーシアム(NCCC)は、日照量や酸素濃度を測定する装置と、改ざん困難なブロックチェーン技術の導入を検討している。農業・林業を中心とした地域にとって、将来的には収入源の一つになりえるだろう。

資産のデジタル証券化による資金調達

管理にかかるコストを減らすブロックチェーン技術は、デジタル証券にも活用されている。これまでは企業や資産家が主体だったが、個人の少額投資に着目した発行が拡大している。10万円単位の小口で三井物産デジタル・アセットマネジメントやソニー銀行がセキュリティトークン(デジタル証券)の販売を開始している。

首都圏に限った話ではない。三井物産デジタル・アセットマネジメント、三菱UFJ信託銀行、野村證券は、温泉旅館を裏付け資産とするセキュリティトークンを開発、個人投資家をメインに販売。みずほ信託銀行は新潟県の越後湯沢にある温泉旅館の資産のうちの21億円余りについて、200万円から購入できる不動産セキュリティトークンとして売り出している。

こういった資産のセキュリティトークン化は買い手側の地方における不動産投資という面だけではなく、宿側にとっては改築費用などを賄う資金調達手段となる。現在はホテルや旅館といったすでにある宿泊施設への活用が目立つが、今後は新規開業施設への活用も増えてくるだろう。入場料の一部を配当金として支払うなど、既存の仕組みを低コストで導入できることが期待される。

ステーブルコインの法整備化、地域通貨構築が可能に

日本全国からの資金調達だけではなく、地域内経済を循環させる地域通貨についても忘れてはならない。1999年頃からブームが起こり、一時は300近くの発行があったが、その後半数近くまで激減してしまった。原因は、運営コストの高さ。当時は紙での発行が主流で管理が大変な上、発行企業へ支払う手数料も安くはなかった。地域内だけでは流通量が増えず、コストを賄うことができなかった。

近年、スマートフォンの普及によって地域通貨は再び脚光を浴びている。岐阜県高山市・飛騨市・白川村の「さるぼぼコイン」や東京都世田谷区の「せたがやPay」といったデジタル地域通貨が続々と運用され、流通量も格段に増えている。

そして、2023年6月の改正資金決済法施行により、法定通貨を裏付けとするステーブルコインが発行可能となった。発行にあたっては銀行、信託会社、資金移動業者の免許を持つ事業者に限定されており、地方銀行によるデジタル地域通貨が誕生する日も近いと思われる。すでに北國銀行がブロックチェーン(分散型台帳)を活用した日本円と価値が連動するステーブルコインを石川県内で流通させる計画を発表している。

ただし、銀行預金口座を裏付けとしたステーブルコインは、金融庁が難色を示しており、実現するかは不透明。このため、今までと同様の電子マネー類似のデジタルマネーを、暗号資産と同様の仕組み(ブロックチェーン技術)を利用し、低コストで実現する方法が広まるとみられる。

  • 日本円のステーブルコインの特徴

    日本円のステーブルコインの特徴

最後に、ブロックチェーンによる耐改ざん性やトレーサビリティにより、地域の特産品などの「モノ」をデジタル資産とし、さらに「ヒト」においても生産者や流通業者の証明に使われ、デジタル通貨という「カネ」も生まれた。今まではデジタルの世界と思われていたことが、ブロックチェーン技術を利用することで、リアルの生活の物的資源さえもデジタルで証明できるようになり、それがデジタルの世界で証明され、売買されることになった。これを利用して新たな地域活性化の策が、今後も様々広がってくることに期待したい。

【著者プロフィール】
ジャスミー株式会社
取締役(商品サービス企画、経営企画・マーケティング担当)柿沼英彦氏
住友銀行(現 三井住友銀行)入社後、ジーアールホームネット(現 NTTぷらら)へ出向し、ISP事業の立ち上げに従事。ソニーに転職した後、ソニー銀行の会社設立、事業立ち上げに携わり、ソニースタイルドットコム・ジャパンおよびソニーマーケティング、ソニー生命保険にてマーケティング・サービス開発を担当。その後イオン銀行の商品開発部長、営業企画部長を経て、イオン・アリアンツ生命保険の会社設立、事業立ち上げを行い取締役に就任。2022年2月よりジャスミーに参画