これまで宇宙飛行士にしか成しえなかった「宇宙から地球を見る」という体験。しかし、地球上にいながらでも宇宙から地球を見て、さらには撮影できる日がすぐそこまでやってきている。

そんな夢のような体験を実現するのは、ソニーグループが宇宙とつながる感動体験のために開始した「STAR SPHERE(スタースフィア)」プロジェクト。2023年1月に打ち上げられた超小型人工衛星「EYE(アイ)」を通して、宇宙空間から地球を撮影することを可能にし、現在、第1回目宇宙撮影体験の参加者募集を2024年2月25日まで行っている(実際の体験は応募者の中から抽選で選ばれた30組がすることとなる)。

今回は、このプロジェクトを担当している同社の事業開発プラットフォーム 新規事業探索部門 宇宙エンタテインメント推進室 事業開発プロデューサーである見座田圭浩氏に、宇宙撮影体験の実現までに至った経緯や技術、将来的な展望を伺った。

  • STAR SPHERE キービジュアル

    STAR SPHERE キービジュアル(提供:ソニー)

「宇宙を身近に」、EYEに込められた思い

宇宙から地球を見るためには当然宇宙に行く必要があるのだが、これまで宇宙に行けるのは過酷な訓練を受けた宇宙飛行士だけであった。近年ではZOZO創業者でもある実業家の前澤友作氏が日本の民間人として初めて国際宇宙ステーション(ISS)に滞在し宇宙旅行を実現するなど、少しずつ宇宙を身近に感じるイベントは増えつつある。しかし、気軽に誰もが宇宙へ行ける環境はまだまだ整っておらず、一般の人たちにとって宇宙はいまだに縁遠い存在のように思える。

そうした中ソニーは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と東京大学(東大)とともにソニーが培ってきた技術が盛り込まれたカメラユニットを搭載したEYEを開発し、2023年1月にスペースXのファルコン9にて打ち上げに成功。

  • ソニー製カメラを搭載したEYE

    ソニー製カメラを搭載したEYE

「EYEを打ち上げることで、カメラを通して自由に宇宙から地球を見てもらい宇宙を身近に感じて欲しいと思っています。また、宇宙から地球を見るという新たな視点を通して、一人一人の物の捉え方や感じ方をアップデートできたらいいなとも思っています。この2つの意味合いを込めて、プロジェクトを進めてきました」と見座田氏は語っていた。

宇宙から地球を撮影できる「EYEコネクト」

すでに宇宙に打ち上げられ、稼働しているEYEだが、そのEYEと我々をつなぎ撮影のシミュレーション体験ができるアプリケーションが「EYEコネクト」だ。

宇宙を身近にすることを目標に掲げたからには、誰が使っても分かりやすいインタフェースにすることを意識してシステムを開発したとしており、2024年1月より無料で公開されている(利用にあたってはユーザー登録が必要)。

  • EYEコネクトを使って実際に宇宙から地球を見ている画面

    EYEコネクトを使って実際に宇宙から地球を見ている画面

撮影体験の大まかな手順としては、EYEコネクトにて利用者が自分で撮影したい場所を探し、そこを指定。この撮影したい場所を探す過程を楽しんでほしいと見座田氏は述べていた。そして、経度緯度などの指定したデータが地上からEYEに送られ、その指示を受けたEYEが指定された場所を撮影、データを地上に送ることで、EYEが撮影した写真が利用者の手元に届くというサービスとなっている。

この撮影体験のコンセプトは「自分で宇宙旅行に行き、一眼レフで地球を撮影するかのような体験」だという。大きな人工衛星に搭載された高性能な望遠カメラで、宇宙から自分の家が見えるくらいの高倍率で鮮明に撮影するというよりは、宇宙から一眼レフで撮影し日本列島の全体像が見えるといったイメージとのこと。

  • 「撮影をリクエスト」ボタンを押すとEYEに情報が送られる仕組み

    「撮影をリクエスト」ボタンを押すとEYEに情報が送られる仕組み。なお、このボタンは抽選に当選した人のみでてくる

今回の撮影体験の開催に至るまで、プロジェクトは順調に進んできたわけではないようだ。実は2023年1月EYEの打ち上げに成功後、同年4月にはEYEを上下左右に動かすための姿勢制御モジュールが故障。同年の秋以降には他の姿勢制御モジュールの一部が故障するなどピンチの瞬間が何度も訪れたという。

人工衛星の姿勢を制御するためには、リアクションホイールと呼ばれるモジュールなどを活用して機体を動かすモジュールなど、いくつかの部品が必要となる。現在のEYEは、その一部が故障しているだけであるため、なんとか撮影を継続できる状況ではあるものの、部分的に壊れたところをどう補いながらプロジェクトを進めていくかという点を悩みながら前進してきたとのこと。「この撮影体験会を開催までこぎつけられたのは嬉しい」と見座田氏は本音をのぞかせた。

宇宙から地球を見るだけではなく、撮影することでさらなるリアリティを

EYEコネクトで宇宙から地球を観察し、撮影したい場所を選択、その映像をキャプチャして保存することはパソコンさえあれば誰でも行える。操作が一見難しそうではあるが、ボタンや表示の意味さえ分かれば自由自在に宇宙視点での地球を見ることができる。

EYEコネクトを公開したことで、「宇宙視点から地球を見る」という当初の目標は達成できているようにも思える。しかし、なぜあえて撮影体験を実施するのか聞いてみた。

「宇宙を身近にする体験で、五感的な要素を洗い出していくと、”見る”というのが1つ大きな要素だという考えに至りました。そこから、宇宙に行った時に自分が見るだろう体験を、少しでもリアリティを持って提供するにはどうするべきか考え、実際に宇宙視点の地球を撮影し、その画像が手元に届くことでよりリアリティを感じてもらえるのではないかという話になりました」(見座田氏)

国際宇宙ステーション(ISS)にはソニーのカメラであるα(アルファ)シリーズが船外プラットフォームに取り付けられているなど、すでにソニー製のカメラは実際に宇宙へ行って地上撮影に活用された実績がある。そのため、宇宙で撮影する際のノイズ対策など課題に関する知見があり、さらにはそうした課題をクリアできる技術力を持ったカメラチームやイメージセンサチームがあるからこそ、実現できたプロジェクトなのだろう。

  • ISSの船外カメラとして採用されたα7S IIとレンズ「SELP28135G」

    ISSの船外カメラとして採用されたα7S IIとレンズ「SELP28135G」(出所:ソニー)

EYEと共に挑む宇宙を身近にするプロジェクトの今後の展望

今回初めての人工衛星の打ち上げによるプロジェクトということもあり、一筋縄ではいかないことを実感したと見座田氏は語ってくれたが、ソニーは一丸となって、撮影体験が行えるまでにプロジェクトを押し進めてきた。

今後の展望について見座田氏に伺うと、「撮影体験の第1クールの募集は30人ですが、今後は体験できる枠を増やせるようにしたいです。また、姿勢のズレにより、指定した所と少しズレた状態で撮影されてしまうのが現状なので、姿勢のズレをなるべく減らせるように改善していきたいです」と語る。

  • EYEコネクトと見座田氏

    EYEコネクトと見座田氏

現在は通信の問題もあり30名と限定的な募集ではあるが、姿勢が安定してくると通信量も増える。さらにサービス運営のオペレーションも改善していくことで、見座田氏は「EYEを使い倒したい」と話していた。そして「面白い地球や感動する地球を撮影し、宇宙視点での地球は『単に綺麗なだけではない』ということを知ってもらい、新たな発見につなげてほしい」と締めくくった。

宇宙撮影体験の第1回目の参加者募集は2月25日まで。なお、追加の体験者募集も2024年中に順次行う予定だとしている。宇宙視点で地球を見てみたい方はぜひ募集要項を確認してほしい。