東京理科大学(理科大)は2月16日、シキミ属植物「Illicium merrillianum」の果皮に含まれる天然化合物で、抗リウマチ活性が期待されながら、これまで立体構造が複雑なために合成が不可能だった「メリリアニン」を人工的に合成することに初めて成功したと発表した。
同成果は、理科大 理学部 第一部応用化学科の椎名勇教授、同・村田貴嗣助教らの研究チームによるもの。詳細は、有機化学に関する全般を扱う学術誌「Organic Letters」に掲載された。
シキミ属は古来より漢方薬として利用されてきた植物で、それらに含まれる「イリシウムセスキテルペン類」の中には、神経系疾患に対する有効性が認められたものもある。そのため、どの有効成分と生物活性との相関関係を理解した上で治療薬へと応用していくことは、極めて重要と考えられている。
そうした中で、2002年にIllicium merrillianumの果皮から単離された化合物がメリリアニンだ。同化合物は、3つの第4級炭素を含む5つの連続した不斉炭素中心と、3つの環が縮環する炭素骨格を有する複雑な分子構造を持つ。そのため合成が難しく、単離に成功して以降、メリリアニンを応用した研究はほとんど進展してこなかったという。さらに、これまでに報告されている立体構造は相対立体配置のみだったため、その絶対立体配置を決定するための不斉全合成の達成が求められてきたとする。
そうした中、2023年にタンザワ酸Bの全合成に成功するなど、長年人工的に合成できていなかった複雑な天然有機化合物の合成において高い成果を挙げてきたのが研究チームだ。今回の研究では、「不斉向山アルドール反応」や「分子内環化反応」を活用することで、メリリアニンの不斉全合成の実現を試みたという。
同研究ではまず、(-)-メリリアニンの逆合成解析を行い、合成経路に関する検討を行ったとのこと。実際の合成では不斉向山アルドール反応、SmI2による還元的分子内環化反応、分子内マイケル付加、ワッカー型酸化反応などが活用され、30の最長直線工程を経て、(-)-メリリアニンの不斉全合成に成功したとする。なおその総収率は1.6%で、(-)-メリリアニンの絶対立体配置を決定することにも成功したという。
また今回の研究では、三環式のジラクトンを主要な中間体として得ることもできたことから、ほかのイリシウムセスキテルペン類似体の合成への応用も期待できるとした。
研究チームは今回の研究成果により、メリリアニンをはじめとする生物活性の解明や抗リウマチ薬などの神経系疾患治療薬開発への貢献が期待されるとしている。