西日本旅客鉄道(以下、JR西日本)、NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)、みずほ銀行、三井住友銀行、三菱UFJ銀行、日本政策投資銀行(以下、DBJ)の6社は2月16日、業務提携契約を締結して6社による総合インフラマネジメント事業「JCLaaS(ジェイクラース)」を開始することを発表し、都内で記者会見を開いた。

  • 記者会見での一幕

    記者会見での一幕

インフラマネジメント事業「JCLaaS」の概要

同事業では、道路、河川、上下水道、公共施設など社会インフラが抱える老朽化などの課題に対し、6社が社会インフラサービスのプラットフォーマーとして「最適化の計画策定」「工事、保守の体制整備、履行」「資金アレンジ」など社会インフラの最適化に必要な機能を担い、各自治体の状況や要望に応じたサービスを展開する。

同サービスは、主に「将来世代の豊かな暮らしや経済成長を支えるインフラへの再構築」と「官・民・市民が未来を共に作る社会の構築」の2点を目指す。物理的に社会インフラを残し続けるだけではなく、世代を超えてサービスを受け続けられるような状況も重視する。世界が変わりゆく中で、利便と負担が最適なバランスで持続できる社会インフラの姿を模索するという。

  • 事業概要

    インフラマネジメント事業「JCLaaS」概要

今回の6社の業務提携において、JR西日本はこれまで鉄道インフラを持続してきた知見を活用して全体的な統括と長期のアセットマネジメントを担う。NTT ComはNTTグループとして長距離通信インフラやICTを提供してきた知見から、社会インフラのデジタル化とDX推進、データ連携基盤を提供する。みずほ銀行、三井住友銀行、三菱UFJ銀行、DBIら金融機関は資金調達のスキーム組成と資金提供で貢献する

JR西日本の代表取締役社長である長谷川一明氏は「社会インフラの維持管理と更新は、年間約9兆円とも12.9兆円とも言われる巨大な市場規模がある。2030年までに100件を超える事業を全国的に展開し、日本での実績をもっていずれは海外にも展開したい」と展望を述べた。

  • JR西日本 代表取締役社長 長谷川一明氏

    JR西日本 代表取締役社長 長谷川一明氏

「JCLaaS」に取り組む背景

JR西日本は2023年4月、志として「人、まち、社会のつながりを進化させ、心を動かす。未来を動かす。」を掲げ、長期ビジョン2032および中期経営計画2025を定めた。その中で持続可能な社会を支える総合インフラマネジメント事業を立ち上げている。

国鉄の分割民営化から37年が経過し、同社が鉄道インフラの安定運営を担う中で、地方の過疎化や設備老朽化、台風・豪雨、感染症の拡大などの課題に直面し対応してきた。ここで獲得した知見を道路や河川など線路以外のインフラ領域へも拡大するべく、同社が中心となって「JCLaaS」を創出。これまでに培った組織能力を活用するとしている。

  • JR西日本は特に線路でインフラ維持管理に注力してきた

    JR西日本は特に線路でインフラ維持管理に注力してきた

各社代表のコメント

記者会見には「JCLaaS」に参画する各社の代表が参加し、それぞれ以下のようにコメントを述べた。

NTT Com 代表取締役社長 丸岡亨氏

NTT Comは国や自治体が抱えるインフラに関わるさまざまな課題を解決し、サステナブルな社会の実現を目指す。同社が有するAIやIoTなどの先端的技術を活用して、各地のパートナーも含めた連携基盤を構築しデータを活用していく方針。

「IoTやドローンなどを活用してさまざまなデータを収集し、リアルタイムな情報把握を支援する。収集したデータはインフラの管理だけではなく、自治体から住民への情報発信やコミュニケーションにも日常的に役立てられるはず。災害時にも使えるだろう。数々のモデルケースを展開してサステナブルな地域社会の実現に貢献したい」(丸岡氏)

  • NTT Com 代表取締役社長 丸岡亨氏

    NTT Com 代表取締役社長 丸岡亨氏

みずほ銀行 取締役頭取 加藤勝彦氏

加藤氏は「JCLaaSは鉄道、通信、金融と業界の垣根を超えた連携を実現した点が特徴的。公共インフラの維持・更新の効率化に果敢に挑戦することは、今後労働人口の減少が進む日本において有意義かつ重要な取り組みになるだろう」と語った。

  • みずほ銀行 取締役頭取 加藤勝彦氏

    みずほ銀行 取締役頭取 加藤勝彦氏

三井住友銀行 専務執行役員 神元浩行氏

三井住友銀行はJCLaaSへの参画によって、「三井と住友がこれまで継承してきた社会的価値の創造を目指す事業精神の実践」「社会インフラの課題解決を通じて日本の再成長と幸せな成長に貢献」「顧客や社会と共に発展する金融機関として新たなチャレンジ・イノベーション創出」の3点を実現するとしている。

神元氏は「戦後79年を迎える現在、私たちは戦後の復興以降に整備された社会インフラに支えられた社会を享受してきた。老いを迎える社会インフラを使えるかたちで将来世代に残していく責任がある。民間の英知と工夫を集め官民連携でムーブメントを起こし、全国へ波及させていく」と意気込みを語った。

  • 三井住友銀行 専務執行役員 神元浩行氏

    三井住友銀行 専務執行役員 神元浩行氏

三菱UFJ銀行 取締役副頭取執行役員 早乙女実氏

早乙女氏は「われわれが進めるサステナビリティ経営の中でも社会インフラ整備は重要な課題と認識している。志を同じくするJR西日本をはじめJCLaaSに参画する各社で、将来世代への責任を果たすべく積極的に取り組んでいきたい」と述べていた。

  • 三菱UFJ銀行 取締役副頭取執行役員 早乙女実氏

    三菱UFJ銀行 取締役副頭取執行役員 早乙女実氏

DBJ 常務執行役員 牧裕文氏

DBJは特にインフラ、産業、地域の3分野を重点分野として、投資および融資やナレッジの提供を強化してきた。特に長期の資金が必要なインフラ分野では、新たな金融手法の開発や情報提供なども手掛けているという。

牧氏は「JCLaaSは地域インフラにおけるレジリエンスを向上させる事業。まさにDBJが目指す方向性と合致する取り組みであり、私たちも参画に至った。私たちに伝わる長期性・中立性・パブリックマインド・信頼性の4つのDNAを最大限発揮しながら、官民を含めたさまざまなパートナーをつなぐ役割を果たしていきたい」と語った。

  • DBJ 常務執行役員 牧裕文氏

    DBJ 常務執行役員 牧裕文氏