宮崎県都農(つの)町、加計学園 岡山理科大学、NTT東日本、NTT西日本の4者は2月13日、ICTと好適環境水を活用した「クエタマ」「タマカイ」の9カ月間の試験飼育を実施し、完全閉鎖循環式陸上養殖では世界初(「完全閉鎖循環式陸上養殖」×「クエタマ」および「タマカイ」の組み合わせでの養殖)となる試験養殖に成功したと発表した。
「クエタマ」「タマカイ」の試験飼育を実施
4者は2022年12月23日、都農町の地域課題に対応し、地域の活性化および町民サービス向上に連携して取り組むことを目的として、多分野連携に関する協定書を締結した。この連携協定では、都農町における「水産業夢未来プロジェクト」として、環境変化等を理由に水産物漁獲量の減少が課題となっている都農町の新たな産業創出に取り組むとしていた。
その具体的な取り組みとして、NTT東日本と岡山理科大が実証を進めるICTを活用した陸上養殖のノウハウを用いた「クエタマ」「タマカイ」の試験飼育を2023年3月から実施していた。
試験飼育では、都農町の7.4トン水槽×2基の実証用養殖プラントにおいて、日本をはじめとするアジア各国で高級魚として好まれているハタ科の中で、完全閉鎖陸上養殖方式では成功事例がない「クエタマ」と「タマカイ」を選択し、約9カ月間の試験飼育を行ってきた。
試験飼育で得た量産化・ビジネス化に向けた成果
その結果、「タマカイ」については94.2%という高い生残率と、養殖における一般的な成長速度の約3倍という高い成長率の両立が確認され、今後の量産化・ビジネス化に向けた大きな成果を得たという。
今回の実験養殖で遠隔指導を行った、岡山理科大学 山本俊政 工学部 応用科学科 准教授は、今回のプロジェクトで良好な生育が達成できた要因として、「飼育水温が摂氏28度前後で安定していたこと」「餌が配合飼料で一定であったこと」「好適環境水を用いたこと」を挙げた。
宮崎県都農町長 坂田広亮氏は、今後の展開について次のように語った。 「今後は本格的な量産体制を構築して、養殖プラントの拡大の検討、この春に操業を開始する予定の水産加工場との連携、ふるさと納税の返礼品等をはじめとする都農町ならではの特産品の開発を、地域のみなさんと一緒に進めていきたいと考えている」
陸上養殖成功のポイント
今回の陸上養殖が成功したポイントは、「完全閉鎖循環式陸上養殖」「好適環境水」「ICTの活用」の3点だという。
完全閉鎖循環式陸上養殖は、水を1回セットアップし、それをろ過し続けて行う陸上養殖のスタイル。他の養殖方式と比較し、「立地を問わずどこでも魚の養殖が可能」「排水がほとんど発生しないため高い環境性を持つ」「アニサキスなどの寄生虫の発生・混入リスクが極小で、安心安全」という特徴を持つ。
好適環境水は、水産生物の効率的な陸上養殖の実現を目的として、山本准教授が開発した人工海水。魚の成長に必要となるナトリウム・カリウム・カルシウム等で構成され、魚の成長に最適であり、淡水魚・海水魚の両方に適応可能な約1%の塩分濃度で調整されている。
ICTの活用として、NTT東日本が提供するカメラにより水槽の状況やプラント全体を確認。また、同社のセンサーにより水温や水のpH(ペ イハー)を測定することで、水槽の状態を監視した。これらの飼育環境データを用いて、山本准教授の遠隔指導などの支援を受けながら現場作業を実施。養殖経験がまったくない飼育員が、ICTを活用した養殖人材の育成および手技・ノウハウ蓄積も実現している。
今後は、給餌量や残量、魚の大きさ、成長速度などを、AIを活用しながらデータ化し、自動給餌を行うことにつなげていきたいという。
NTT東日本 ビジネス開発本部 営業戦略推進部 担当部長 兼 NTTアグリテクノロジー 取締役 マーケティング統括本部長 小林弘高氏は、「養殖経験がない方でもできる、まさに誰でもできる、どこでもできるこのモデルを、都農発という形で、これから新たに産業を創っていくところに対して、案内することが可能」と述べた。
今後の展開
今回、試験飼育を行った両魚種のうち、「タマカイ」は、元々持ち合わせている先進性・ブランド性とあわせて、高い生産性を確認できたことから、今後は「タマカイ」を注力魚種として扱う予定だ。
また、取得したデータを活用したデータ駆動型による生育環境の自動制御やより高いレベルでのリアルタイム遠隔指導体制の構築を目指す。
4者は今回の成果をもとに、「水産業夢未来プロジェクト」の推進と実現に向けて、都農町漁協など地域の水産事業者等との連携により、完全閉鎖循環式スマート陸上養殖における「タマカイ」の本格的な量産体制の構築、2024年春に竣工予定の加工場の活用および都農町の新たな特産品の商品化・販売の実現、新たな地域ブランドの創出に向けた取り組みを進めていく。