大阪大学(阪大)とマンダムの両者は2月14日、特定の口腔細菌が共生するだけで、口臭原因物質「メチルメルカプタン」の産生が増加する「口臭増強機構」を発見したことを共同で発表した。
同成果は、阪大大学院 歯学研究科の久保庭雅恵准教授、同・天野敦雄教授、マンダムの共同研究チームによるもの。詳細は、単一細胞と微生物群集における代謝および調節システムに関する学術誌「mSystems」に掲載された。
口臭は、非常にデリケートな問題であるために表に出にくいが、アンケートを実施すれば最も気にしているニオイの1つとして上位に挙げられるという。口臭の難しいところは、通常は自己認識が難しくなおかつ周囲の人も指摘しづらい点が挙げられ、「口臭心身症(自臭症)」を患っている人が多い一方で、自身の強い口臭に無自覚な人も多く、対人コミュニケーションに悪影響を及ぼす原因にもなっている。
口臭の主要な原因物質であるメチルメルカプタンは、硫黄を含むガスで、微量でも非常に強力な臭気を発することから、極低濃度でもヒトがその臭気を感知でき、口臭や歯周炎とも強く関連している。 近年、口腔内のさまざまな細菌間の相互作用が歯周病などの口腔疾患に関与していることが報告されているが、それらの口臭の発生への関与はわかっていなかったとする。そこで研究チームは今回、2菌種を接触させることなく嫌気条件下で共培養できる培養法を構築し、主要な口腔細菌によるメチルメルカプタンの産生と口腔細菌間の相互作用の影響を調べることにしたという。
調査の結果、口腔内に存在し、歯周病の原因にもなっているグラム陰性菌の一種である「Fusobacterium nucleatum」(Fn菌)が、「メチオニン」を代謝することでメチルメルカプタンを大量産生し、その産生は初期定着菌(歯面など口腔内の表面に付着し、他の微生物が付着しやすい状態を作り出す菌)で、グラム陽性球菌の一種である「Streptococcus gordonii」(Sg菌)が共生することで、約3倍に増加することが判明した。
さらに、アミノ酸の「アルギニン」と「オルニチン」の取り込みや排出を担う膜タンパク質(アンチポーター)を変異させたSg菌の「アルギニン-オルニチンアンチポーター」(ArcD)変異株を用いた解析により、Sg菌から分泌されるオルニチンがFn菌によるメチルメルカプタン産生の増加に大きく関与していることが示されたという。
次に、Fn菌が取り込んだメチオニンがどのように菌体内で利用されているのかを調べるため、安定同位体で標識されたメチオニンを用いた「安定同位体ラベル解析」と遺伝子発現解析が行われた。すると、Sg菌から分泌されたオルニチンをFn菌が菌体内へ取り込むことで、菌体内にあり細胞増殖やバイオフィルムの形成、酸化ストレスからの防御などに関わっている生理活性物質「ポリアミン」の合成を通じて、メチオニンの取り込みを増加させていることが解明された。それにより、Fn菌のメチオニン代謝経路が活性化され、メチルメルカプタンの産生を増加させていたのである。これらの知見から、Fn菌とSg菌の共生が口臭を悪化させている可能性が示された。
今回の研究によって見出された新たな口臭産生促進機構のように、メチルメルカプタン産生に関与する口腔細菌間の相互作用を理解することによって、口臭や歯周病を治療するための効果的な予防法、治療薬の開発が促進されると考えられるとする。また、ヒトに共生する常在細菌間の相互作用の理解を深めることで、ヒトから発生するさまざまな臭気に対するニオイケア製品への応用が期待できるとしている。