信州大学(信大)は2月8日、実験動物であるマウスの体の各部位の動きを捉え、その動きを統合して行動パターンを自動で読み取るAIシステムの開発に成功。同システムを用いて、妊娠期にニコチンを摂取させたマウスから生まれた子供の行動異常の解析を行ったことを発表した。

同成果は、信大 先鋭領域融合研究群 バイオメディカル研究所 ニューロヘルスイノベーション部門/医学部 分子細胞生理学教室の田渕克彦教授、同・森琢磨助教らの研究チームによるもの。詳細は、細胞生物学・分子生物学・生物物理学を扱うオープンアクセスジャーナル「Cells」に掲載された。

妊娠期にニコチンを摂取させた母親マウスから生まれた仔は、「注意欠陥多動性障害(ADHD)」様の行動異常をきたすことが明らかにされている。しかしそれ以上の知見は少なく、より詳細な解析を行う余地が残されていたという。そこで研究チームは今回、マウスの体の各部位の動きを捉え、その動きを統合して行動パターンを自動で読み取るAIシステムを開発することにしたとする。それに加え、そのAIによる行動パターン検出システムを用いて、そのマウスの行動解析に適用し、効果判定を行うことにしたという。

今回の研究では、機械学習プログラム「DeepLabCut」と「SimBA」が改良され、マウスの行動パターンを学習させ、行動異常を検出できるようにしたほか、研究者が手動でも解析を行いAIで得られた結果と照合を行ったという。また、動物モデルの妊娠後期のマウスに対しては、飲料水にニコチンが混入され、出産するまでニコチンを持続的に摂取する環境下で飼育が行われた。

マウスの行動解析が行われ、AI解析システムによって検出された結果と、研究者によって手動で解析された結果の比較が行われると結果が一致し、AIによる行動異常のパターンの自動検出システムの開発に成功したという判定がなされたとする。胎生期にニコチンに暴露された仔マウスは、ADHD様行動異常に加えて、社会行動の異常など、自閉スペクトラム症関連行動の異常も検出された。胎生期にニコチンに暴露された仔マウスで、成熟後海馬ニューロン新生の異常が見られ、自閉スペクトラム症との関連が指摘される組織像と一致したという。

今回の研究で開発されたAI解析システムは、さまざまな疾患モデルマウスの行動解析に利用することが可能とする。また妊娠期の喫煙が、ADHDのみならず自閉スペクトラム症のリスクファクターになる可能性が示された。このAI解析システムは、人間の状態検出にも応用可能と考えられ、さらなる改良を加えることで神経症状の診断や高齢者の一人暮らしの状態観察システムの開発につなげられる可能性があるとしている。