【楽天市場「2024年上期戦略共有会」】流通総額は6兆円到達、「最強配送」開始 出店料金は値上げへ?!

楽天グループ(楽天)は1月25日、「楽天市場」の出店者向けイベント「楽天新春カンファレンス2024」を開催した。イベント内の「『楽天市場』2024年上期戦略共有会」では、楽天の2023年における国内流通総額が6兆円に達したことや、今年7月から開始する配送品質ラベル「最強配送」の紹介、出店プランの固定費を変更することなど、について紹介している。戦略共有会の内容について、常務執行役員コマース&マーケティングカンパニーヴァイスプレジデントの松村亮氏に聞いた。

楽天の国内EC流通総額は2023年も堅調に成長している。国内EC流通総額は6兆円に到達し、2030年の目標である流通総額10兆円を向けて堅実に歩みを進めている。

「国内でオフラインも含めて最も大きいリテーラーグループであるイオンの売上高が約10兆円、単体だとセブン‐イレブンが約5兆円だと思うので、6兆円という数字はインパクトがあると思う」(松村氏)と話す。

「楽天市場」の成長戦略として、①マーケティング改革とロイヤルユーザーの拡大 ②売り場改革 ③継続的な物流強化 ④AIおよびシステムインフラへのさらなる積極投資 ⑤店舗コミュニケーションの強化――の5つを挙げた。

【①マーケティング改革とロイヤルユーザーの拡大】

■市場・カード・モバイルの共同マーケを加速

顧客育成においては、「楽天市場」と「楽天カード」の共同マーケティングに加えて、「楽天モバイル」を加えたマーケティングを加速するという。2023年10月の「SPU(スーパーポイントアッププログラム)」の変更もその戦略に沿った変更だった。

「2023年12月の『楽天スーパーSALE』の1人当たりの購入金額は、『楽天カード』『楽天モバイル』どちらも持っていないユーザーと比べて、『楽天カード』だけ持っているユーザーは30.9%増、『楽天モバイル』だけ持っているユーザーは31.6%増だった。それが『楽天カード』『楽天モバイル』両方持っているユーザーは、91.1%増となった。両方持っているユーザーがロイヤルユーザーとなっている」(同)と話す。

「楽天モバイル」の契約者数は昨年末に600万人を超えており、さらなる増加を見込んでいるという。

「『楽天モバイル』は次のステップとして、800万、1000万と契約者の拡大を目指している。『楽天カード』の発行枚数は3000万くらいだが、1人で2枚持っている人もいるのでユニークだと2000万人強が利用している。『楽天モバイル』の契約者がその半分の1000万人くらいの規模になると、かなり『楽天市場』の成長エンジンとしてのインパクトも出てくる」(同)と期待している。

■買い回りイベントの開催頻度を増やす

顧客育成ドライバーとして大きい「楽天スーパーSALE」「お買い物マラソン」などの大型セールイベントは年々、流通総額が伸びており、年間流通総額は4年平均成長率が20.8%増となっている。

「大型セールもアップデートしていく。開催サイクルの変更も検討している。現在は全ユーザー共通の特典を提供しているが、ロイヤルユーザーを育てていきやすいようにメリハリ付けていくことなども考えている」(同)と話す。

買い回りイベントの開催頻度を増やしたり、イベントカレンダーを公開したり、開催回ごとの特集テーマを打ち出したりすることを検討している。

顧客ロイヤリティ別の最大倍率の設定や、特定ジャンルごとのポイントアップ、プレ期間のセール開催も実施案として挙がっている。

ライトユーザーに対して、「楽天市場」を第一想起してもらうため、SNSでの情報発信も強化する。YouTubeへの動画配信や記事メディア、スマホアプリへの情報発信にも注力する方針だ。

【②売り場改革】

■定期購入、クーポン機能がさらに進化

「売り場」に関して2023年の最大の取り組みは、「SKUへの移行」だった。すでに95%以上の店舗がSKUへ移行を完了している。商品属性を入力した商品が全体の60%を超えたという。

「SKUに移行し、バリエーションラベルや単価の表示がある商品は、検索結果上のクリック率が2倍以上となっている」(同)と紹介する。

今年、目玉のプロジェクトとして取り組むのが「定期購入」だ。すでに機能としてはあるが、より使いやすくするために、全面リニューアルするという。

「単品販売と定期販売商品を同一ページで表示できるようにしたり、定期購入を利用する際の固定費を廃止して売り上げに応じたシステム利用料に変更したりする予定」(同)と話す。

クーポン機能もさらに進化する。ユーザーの購買動向を分析し、効率的に値引き原資を振り分け、効果の最大化を図る。

■インスタやGoogleへの広告配信に対応

今年1月、RPP(楽天プロモーションプラットフォーム)広告の入札単価において、購入確率の高い高ランクユーザーは単価を上げ、購入確率の低い低ランクユーザーは単価を下げる機能をリリースした。

今年3月までに楽天のTDA(ターゲティングディスプレイ広告)において「Facebook」「Instagram」へのターゲティング広告を配信できるようにしたり、今年4月にはRPPの拡張機能としてGoogleショッピング広告を配信できるようにしたりする。

「R-Messe」では問い合わせ対応を自動化する希望を強化する。

【③継続的な物流強化】

■7月から「最強配送」開始、検索にも影響

配送関連では、2023年6月に「最短のお届け可能日表示機能」を提供している。この機能を利用することで購買転換率が9%改善している。

配送品質向上制度として、2024年7月から、配送に関する一定の基準を満たした商品に「最強配送」というラベルを付与する。

「最強配送」認定商品は「楽天市場」の検索結果でも優先表示する予定だ。

「『最強配送』はあくまで検索優先順位を決定する要素の1つに含める予定であり、検索結果に『最強配送』の商品だけが上位表示されるような仕様ではない」(同)と説明する。

今後、置き配や急がない便(仮)などライフスタイルに合わせた受け取り方に対応していく計画もある。

【④AIおよびシステムインフラへのさらなる積極投資】

■システム投資増大のため、出店プランを変更

2024年はAI活用を本格化する。

1月からセマンティック(意味)検索を試験的に導入しており、その結果として商品転換率が2.7%増加している。

商品データや商品ページの作成、問い合わせ対応、RMSのサポート、分析などにもAIを導入し、店舗の業務効率化を支援する。

「正直、『楽天市場』のシステム投資コストは膨らんでいる。外部環境的にも物価高の影響も受けている。ただ、AIなどシステム領域にきちんと投資していかないと、『楽天市場』を今後も魅力的な売り場にしていくことが難しくなる。われわれも覚悟をもって投資をしていく」(同)と話す。

システム投資の増大に対応するため、出店プラン(月額出店料)を一部変更するという。変更内容の詳細については、2月中に発表する予定だ。

【⑤店舗コミュニケーションの強化】

■「ブランド設計」講座、「楽天大学ラボ」を開設

NATIONSやビジネスマッチングイベントはさらに強化していく。NATIONSでは今年2月から「ブランド設計」講座を開催する。

1月25日には、「楽天大学」の中に「楽天大学ラボ」を開設し、経営戦略やビジネストレンドを学べる講座を用意した。

店舗とオフラインで対話する「楽天タウンミーティング」も引き続き開催する。店舗と建設的な議論をする「楽天市場サービス向上委員会」も引き続き運営していく。

「安心・安全の取り組み」については、健康被害などの重大リスクに対して、外部専門機関と提携し、さらなる対応強化に取り組む計画だ。