広島大学は2月8日、さまざまな有機置換基で修飾可能な「ナノグラフェン」の特徴を活かすことで、中間色発光が可能な複合材料を実現したことを発表した。
同成果は、広島大大学院 先進理工系 科学研究科の構造有機化学研究室の有村咲紀大学院生、同・松本育也大学院生(研究当時)、同・関谷亮准教授、灰野岳晴教授らの研究チームによるもの。詳細は、独国化学会の刊行する機関学術誌の国際版「Angewandte Chemie International Edition」に掲載された。
発光材料はさまざまな用途に用いられることから現在、盛んに研究が進められているが、発光色は発光を担う発光性分子の電子構造に影響を受けるため、すべての発光色を容易に達成できるわけではないという。例えば、紫色発光は大きなバンドギャップが必要であるため、炭素・水素・窒素などの典型元素からなる有機化合物で紫色発光を実現した例は極めて少ないとする。このような場合、青色発光や赤色発光などを混合することで紫色発光が再現され、単一構造体で紫色発光を含む中間色の発光を自在に再現できれば、発光材料の開発を大幅に短縮することが可能になるとする。
黒鉛から酸化分解を用いるトップダウン法によって得られるナノグラフェンは、直径20nm程度の炭素原子1~数層分の厚みの二次元物質「グラフェン」のフラグメント。エッジ部分にカルボン酸などの含酸素官能基を多数有することから、複数の機能性有機置換基で修飾することにより、さまざまな機能を発現させることが可能だ。そこで研究チームは今回、その性質を利用して青色発光と赤色発光を示す有機置換基をナノグラフェンに一括導入することで、紫色発光の再現を目指すことにしたという。
その結果、360nmの光で化学修飾したナノグラフェンが励起され、青色発光と赤色発光が同時に起こり、中間色である紫色発光を再現することに成功したとする。さらに、ナノグラフェンに導入された青色発光と赤色発光の発光強度が励起光の波長と有機溶媒の種類に依存することを利用し励起波長を変化させることで、さまざまな色での発光が実現された。
また、ナノグラフェンが凝集することで発光強度が増強する「凝集誘起発光増幅」が起こることも突き止められたという。なお凝集誘起発光増幅とは、分子が凝集することで分子運動が抑制され、その結果として発光強度が増加する現象のことである。この性質を利用することで、凝集状態でも発光性能の低下を抑えられることが期待されるとした。実際、ナノグラフェンが、フッ素系の熱可塑性ポリマー樹脂の一種である「ポリフッ化ビニリデン」に分散させられた結果、発光性能の低下を抑えつつ紫色に発光するフィルムの実現に成功したとする。
研究チームは、今回の研究成果を応用することで、さまざまな中間色の発光を再現可能な炭素材料の開発に大きな弾みがつくことが期待できるとしている。