物質・材料研究機構(NIMS)は2月5日、太陽光に対して20%以上の光電変換効率(発電効率)を維持しながら、60℃の高温雰囲気下で1000時間以上の連続発電に耐える1cm角のペロブスカイト太陽電池を開発したことを発表した。

同成果は、NIMS エネルギー・環境材料研究センター 太陽光発電材料グループのカダカ・ビ・ドゥラバ主任研究員、同・柳田真利主幹研究員、同・白井康裕グループリーダー、NIMS 蓄電池基盤プラットフォームの太田一司主席エンジニアらの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。

ペロブスカイト太陽電池は、100℃程度の低温プロセスで作製できる上、20%以上の光電変換効率(発電効率)を得られることから、安価に製造できる可能性がある次世代型太陽電池として期待されている。しかしペロブスカイト型の結晶構造は、イオン性結晶半導体としての特異な性質から水分との反応により劣化しやすく、長期耐久性の獲得(高い光電変換効率との両立)が課題となっている。

ペロブスカイト太陽電池では、ペロブスカイト層が太陽光を吸収して電子と正孔が発生する。そして電子がペロブスカイト層に隣接する電子輸送層へ、正孔が正孔輸送層へ移動することで、電流として取り出せるようになる。しかし、電子輸送層とペロブスカイト層の界面に欠陥が生じると、発生した電子と正孔の一部が欠陥を介して再び結びついてしまい(電気的に短絡してしまう)、電力として取り出せなくなる。そのため、ペロブスカイト層が形成された際の表面や粒界にある結晶欠損を除去するといった界面制御が、発電効率を向上させるための鍵となると考えられている。

  • ペロブスカイト太陽電池の断面とペロブスカイト結晶構造の模式図

    ペロブスカイト太陽電池の断面とペロブスカイト結晶構造の模式図(出所:NIMSプレスリリースPDF)

ペロブスカイト太陽電池の劣化要因である水や酸素は、真空蒸着や塗布プロセスで形成される金属電極、緩衝層、電子輸送層から侵入しやすいと考えられる。つまり耐久性の向上には、電子輸送層とペロブスカイト層の界面に水分子や酸素に対して安定した材料を導入する必要がある。研究チームは今回、その点を考慮した上で、60℃の高温条件下において1000時間の連続発電するペロブスカイト太陽電池の開発に挑んだという。

そして研究チームは、光照射側から、TCO付きガラス、正孔輸送層(酸化ニッケル)、厚さ400nmの三次元(3D)構造であるFA0.84Cs0.12Rb0.04PbI3ペロブスカイト層(A=ホルムアミジニウムイオン(FA+),Cs+,Rb+、B=Pb2+、X=I-)、電子輸送層(フラーレン(C60))、緩衝層、銀電極の順で積層されたペロブスカイト太陽電池が開発された。なお今回は実用化を視野に入れ、世界標準の評価サイズである1cm角のデバイスとして作製された。

ペロブスカイトのAサイトに長鎖アルキル基やフェニル基などを有する「アミン」や「ジアミン化合物」などの有機アミン類を導入することにより、半導体層(ペロブスカイト)と絶縁層(有機アミン類)が交互に重なり合った二次元(2D)ペロブスカイトができる。2Dペロブスカイトは疎水性の絶縁層が結晶内部に存在するため、外気中で安定に存在することが知られている。一方で、2Dペロブスカイトの半導体層で発生した電子と正孔は絶縁層を跨いで移動することが難しい。そのため、2Dペロブスカイトをナノメートルサイズの小さな結晶粒として、3Dペロブスカイト層と電子輸送層の界面に導入することにより、ペロブスカイト太陽電池の耐久性を向上できると考察したという。

ペロブスカイトと電子輸送層の界面に、一般的に知られている「1,4-フェニレンジアミン」の「二ヨウ化水素酸塩」(PEDAI)を用いた2Dペロブスカイトと、「ピペラジン」の二ヨウ化水素酸塩(PZDI)に置き換えた場合が比較された。その結果、ペロブスカイト表面との相互作用の強さ、2Dペロブスカイト結晶粒の形成しやすさ、2D構造(半導体層と絶縁層との厚み)、2D結晶粒のサイズなどに依存して、PZDIの2D結晶粒が界面に導入されると、より高い発電効率とより高い耐久性を示すことが突き止められたとする。

  • ペロブスカイト太陽電池とペロブスカイト結晶構造の模式図、および3Dペロブスカイトと電子輸送層界面に存在する2Dのペロブスカイトの透過型電子顕微鏡像

    ペロブスカイト太陽電池とペロブスカイト結晶構造の模式図、および3Dペロブスカイトと電子輸送層界面に存在する2Dのペロブスカイトの透過型電子顕微鏡像(出所:NIMSプレスリリースPDF)

そして今回は、発電中に温度が上昇しないように冷却しながらではあるが、室温(25℃)で1000時間の連続発電が達成された。しかし実際の屋外での発電では、日照の影響などで太陽電池の温度は50℃以上(夏場は約85℃)の高温になるとされ、これまでのペロブスカイト太陽電池では、50℃以上での1000時間発電は実現できていなかったという。しかし今回は、太陽光に対して20%以上の発電効率を維持しながら、60℃の高温雰囲気下で1000時間以上の連続発電に耐える1cm角のペロブスカイト太陽電池の開発に成功したとする。

今後、研究チームではペロブスカイト太陽電池の高効率化や高耐久化と同時に、屋内での疑似太陽光照射に加えて、実際の太陽光を照射する屋外試験を行いながら、加速試験の方法の確立を進めるとしている。