他社の採用面接で直談判
「安全とサービスの2つ、これが私のキャリアそのもの」─。日本航空(JAL)の次期社長で代表取締役専務執行役員カスタマー・エクスペリエンス本部長の鳥取三津子氏(59)は語る。
航空業界からは様々な角度から今回の社長交代に関して驚きの声が上がる。まずは客室乗務員(CA=キャビンアテンダント)からの抜擢という点だ。「経営破綻するまで同社の社長と言えば、経営企画系、総務系、財務系といった〝社内官僚〟ばかりだった」(業界関係者)からだ。
次に鳥取氏が東亜国内航空(日本エアシステム=JAS)出身である点。2002年の「JJ合併(旧JALとJASの経営統合)」は、まさに大(旧JAL)が小を飲み込む吸収合併。その後も歴代社長は旧JAL出身者が務めた。しかし鳥取氏は「統合から約20年が経ち、そういった心配はない」と話す。
世界の航空業界でもCA出身社長は珍しい。福岡県生まれの鳥取氏は地元では〝お嬢様学校〟として有名な活水女子短期大学(長崎県、現活水女子大学)に入学。同大学は女性運動の先駆けである神近市子氏や日本初の女性閣僚として厚生大臣(当時)を務めた中山マサ氏がOGだ。
鳥取氏は就職先に航空会社とは別の会社を志望したが、卒業年度に採用募集がないと判明。しかし、履歴書を片手にその会社に突撃で採用面接を直談判して内定も得た。その後にJASからも内定を受け、自分にとってより困難だと思われるCAの道を選択した。
入社4カ月後に御巣鷹山の事故が起き、「当時受けた衝撃は今も強く心に刻まれている」(鳥取氏)。今年1月2日に羽田空港で起きた衝突事故では「9人いたCAのうち4人は入社したばかり」(関係者)だったが、約380人の乗員・乗客の死亡者はゼロ。現場力が発揮された形だ。
コロナ禍で「航空一本足打法からの脱却」は避けて通れない経営課題。鳥取氏が、航空需要の創造はもちろん、関連サービスを含めて、新しいJALグループをどう構築するかが注目される。