東日本旅客鉄道(以下、JR東日本)は2月6日、安全輸送のさらなるレベルアップや将来の労働人口減少を見据えた業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)の一環として、信号システムのDXを推進していることを明らかにした。その具体的な内容は以下の通り。
ES II 形電気転てつ機の一部検査のCBM化
首都圏に導入しているES II 形電気転てつ機では、各機器室に設置しているモニタ装置で各種データの監視や故障予兆の検知を行っている。今回、同社はこれらのデータを活用して一部検査をCBM(Condition Based Maintenance:状態基準保全)化し、現地確認からデータの確認への置き換えを試行する。
2024年度は23台においてデータ解析を適宜実施し、従来は年3回実施している現地検査を年1回とし、検査品質および生産性の向上について検討する。なお、首都圏全体で電気転てつ機は約3200台あり、そのうちES II 形電気転てつ機は約560台。うち23台を対象に試行する。
近赤外線を使用した「特殊信号発光機視認性確認システム」
踏切などで異常が発生した際に付近の列車を操縦する運転士に知らせるため、赤色灯を発光する特殊信号発光機(特発)が設置されている。この特殊信号発光機の視認性を確認するために、これまでは夜間など列車走行のない時間帯に現地で定期的な目視検査が行われていた。
同社はこの検査の省力化を目的として、近赤外線と画像処理技術を用いた「特発視認性確認システム」の導入を進める。このシステムは日中時間帯に走行する営業列車から映像を撮影し、その画像を解析して特殊信号発光機の視認性を自動判定する。現在までに地方線区を中心とした31線区で約6800箇所に設置しているという。2024年度より実用化予定。
軌道回路用信号ボンドのメンテナンス
同社はレールの側面に取り付けられている軌道回路用信号ボンド(以下、信号ボンド)の取付状態を確認する「信号ボンドモニタリング」を2020年4月から運用開始している。現在までに首都圏26線区に導入済み。
このモニタリングは、営業列車搭載のカメラで取得した画像データをボンドモニタリング装置に取り込み、過去に撮影した正常なボンドの画像と比較して取付状態の良否を判定する。異常が疑われる画像にはオペレーターが最終的な良否判定を確認する。
2022年度は信号ボンドモニタリングにより、即修繕が必要な信号ボンドの異常を13件発見し、迅速な処置により障害を未然に防止できたとのことだ。
GNSSおよび携帯無線通信網を活用した踏切制御システム
JR東日本が開発を進める踏切制御システムは、GNSS(Global Navigation Satellite System)を活用して列車の位置を把握し、列車と地上設備間の伝送装置に携帯無線通信網を活用することで、最小限の地上設備で踏切制御を実現している。
2020年9月から八高線で計128回の走行試験を実施し、高麗川駅と北藤岡駅の間で踏切制御機能導入を目指しているそうだ。さらに、社外への展開も見据えて信号機などに応じた列車速度制御機能の開発と検証も進める。
AIを用いた鉄道信号システム故障時の復旧支援システム
同社は2023年3月に鉄道信号システム故障時の復旧支援システムを開発し、首都圏線区の指令所に導入している。指令員が調査結果を時系列に入力すると、AIが過去の故障対応記録から類似事象を自動的に抽出して原因の推測と対策の提案を行う仕組みだ。指令員の経験知を補うものだとしている。