2024年1月31日から2月2日まで東京ビッグサイトで開催されていたナノテクノロジーに関する展示会「nano tech 2024」の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)ブースにて、山口大学発ベンチャーであるTSテクノロジー(山口県宇部市)が、デジタル駆動化学による合成プロセス設計技術事業についての技術開発内容を展示していた。
同社は今回、NEDOの材料・ナノテクノロジー部が推進している「機能性化学品の連続精密生産プロセス技術」の研究開発プロジェクトに参加している企業の1社として、その合成プロセス設計技術事業内容を展示したという。
最近はAI(人工知能)などによって新規の機能性化学品の材料候補が発見されるものの、こうした新規の複雑な機能性化学品をどうつくるか(合成するか)を予測する合成プロセス設計技術の確立が強く求められるようになってきているという。例えば、創薬などの複雑な機能性化学品の合成プロセス設計技術の高度化が強く求められている。こうした機能性化学品の合成プロセス設計技術の高度化に向けて、TSテクノロジーは「合成経路デジタルスクリーニング技術」「触媒評価技術」「高速実験実証技術」「反応速度論シミュレーション」などの要素技術を組み合わせた「デジタルスクリーニングと実験データとの連携による生産装置設計技術」などを開発する事業を進めているとする。同社の想定ユーザーは複雑な機能性化学品の合成プロセス設備を新規に設ける精密化学メーカーなどになる。同社が想定しているユーザー企業の研究開発・事業化内容を表1に示す。
同社は代表取締役社長を務める山口徹氏が、山口大大学院工学研究科の博士課程在籍中の2008年に創業したベンチャー企業。2008年当時、工学研究科の堀憲次教授(現在は同社の最高技術執行役員)の研究チームにより実用化されたCAS(理論計算を用いた合成支援)技術、in silico(コンピュータ利用)合成経路開発技術、遷移状態データベース技術などの各技術シーズ群を活用する“計算化学”を事業化する目的で創業された。「当社の創業は科学技術研究開発機構(JST)によるベンチャー企業の支援策によって実現した」と、山口社長は説明する。
「当社は合成プロセス設計技術などの各要素技術を成熟させ、かつ合成プロセス設計技術の連携を高度化するなどの進化によって、通常の合成プロセス設計技術の開発期間の1/5程度(約3カ月程度)まで短縮化するなど成果を上げ始めている」という。この結果。宇部市の本社に加えて、2019年12月には東京都千代田区内に東京本社を設け、「ユーザー企業との新規契約を進めている」という。「具体的には、TSテクノロジーの研究員と計算機設備を占有利用するFTE契約というサービスを開始し、そのサービス内容の説明作業を強化している」という。FET契約は3カ月から1年間程度の期間を想定し、難解な研究開発テーマを短期間で開発する仕組みとなる契約内容で、「具体的な研究開発内容によって、その契約価格を見積もる」という。抱える研究員も「有機化学系と無機化学系、ケモインフォマティクス系(部分的最小二乗回帰などを用いる解析手法であるPLS解析、深層学習などの人工知能解析)などの専門家たちを雇用することで、成果を上げ始めている」と、山口代表取締役は説明する。