宇宙のかなたから届くわずかな時空のゆがみ「重力波」を捉える観測施設「KAGRA(かぐら)」(岐阜県飛騨市)が、元日の能登半島地震=マグニチュード(M)7.6=で被災し損傷が広がったことが5日、分かった。東京大学宇宙線研究所が発表した。米欧との共同観測を来月から再開する計画だったが、大幅な遅れが必至に。2011年の東日本大震災、20年のコロナ禍に続き、災害がプロジェクトに立ちはだかる局面となった。
KAGRAは重力波を捉えてブラックホールのほか、星の終末の姿である「中性子星」や「超新星爆発」などを観測する施設。重力波望遠鏡とも呼ばれる。東京大学が中心となり、山中の地下約200メートルに2019年に完成させた。1辺3キロのL字型の中央から2方向に発射したレーザー光が、それぞれ鏡に反射して戻るまでの時間差を基に、重力波を捉える。4つの鏡には、熱のノイズを抑えるため、冷やしやすいサファイアの単結晶を採用。観測時はサファイアを零下253度にする。他の鏡も含め、地面の振動を拾わないよう防振装置につるし、重力波を検出する。
同研究所によると能登半島地震の際の坑内は震度3。地表の周辺地域は4程度で、飛騨市は最大5弱だった。計20基の防振装置のうち少なくとも9基に、手動の調整が必要な不具合や、部品の脱落が確認された。サファイアの鏡のうち3つで、鏡を制御するための磁石が多数、脱落した。サファイアは地震発生時、零下188度に冷却されていた。これらをいったん常温に戻して真空容器を開けて修理し、再び真空にして冷却する必要がある。防振装置の残り11基は、まだ不具合の有無を確認できていない。
KAGRAは昨年5~6月、米欧との国際共同観測に1カ月にわたり参加した。その後、計画通りに感度向上の作業を進めている中で被災した。来月からの予定だった国際観測への参加は遅れが必至で、今回の観測期間が終わる来年1月までの参加を目指すという。
これまでも災害の影響を被ってきた。建設中の2011年、東日本大震災の影響でトンネルの掘削工事が約1年にわたり中断。完成後は国際観測を目指して調整を進め、2020年3月に参加条件の感度を達成した。ところが今度はコロナ禍のため、米欧施設がKAGRAの参加を待てずに観測を中断。これを受けたドイツの別の施設との共同観測も、コロナにより2週間で打ち切られている。
ドイツとの観測では、KAGRAの感度を妨げるノイズが予想以上に大きいことが判明。対策を進め、国際観測にこぎつけたところだった。重力波をまだ捉えられていないが、3月からの観測で兆候を捉える感度の達成を目指し、準備を進めていた。
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