日本初の月面着陸に成功し、活動を続けていた実証機「スリム」が日没を迎えて休眠状態に入ったことを、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が1日、明らかにした。先月20日の着陸当初は太陽電池が働かず、間もなく休眠。その後に日照の向きが変わったことで発電を始め、分光カメラで順調に観測を進めた。着陸地点は2週間続く夜に入っており、夜明け後に“再復活”に挑戦する。

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    分光カメラの10バンドの波長帯で詳しく観測した岩石。スリムチームにより愛称が付けられている(JAXA、立命館大学、会津大学提供)

スリムは低緯度の平原「神酒(みき)の海」にある「シオリクレーター」付近の傾斜地に、史上最小の位置誤差で高精度に着陸した。ただ2基の主エンジンのうち1基が降下中に停止した影響で、太陽電池を真上に向ける計画通りの着陸ができなかった。休眠を経て、日照の向きが変わって発電できるようになり、先月28日夜に活動を再開していた。

スリムチームによるX(旧ツイッター)の投稿によると、分光カメラで周辺の岩石の科学観測を続けた後、日没が近づき、先月31日に休眠状態に入った。今月1日にかけて指示を送ったが、反応がなかったという。太陽電池に日が当たる今月中旬以降、再び運用に挑戦する。ただ搭載した電子機器類はもともと、月面の零下170度にも及ぶ厳しい寒さに耐える設計になってはおらず、成功するかは未知数だ。スリムは既に高精度着陸などの計画の目的を達成しており、“放課後”の活動といえる。

分光カメラは、10バンドの波長帯と高解像度を生かした撮影に成功。当初の期待より多くの観測ができたという。データを基に、月の起源の謎に迫る岩石の判別や、鉱物の化学組成の解析を進める。

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    着陸直前に分離した小型ロボット「レブ2」が撮影したスリム。姿勢が計画から外れて転倒し、太陽電池を上でなく西(右)に向けて静止している。中央部の横線はノイズ(JAXA、タカラトミー、ソニーグループ、同志社大学提供)

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