沖縄科学技術大学院大学(OIST)は2月2日、イソギンチャクと共生することで知られる海水魚「カクレクマノミ」のコロニーが宿主であるイソギンチャクへの侵入者に対してどのような反応を示すかを観察したところ、異なるクマノミ類の種を、体の白い帯模様の数によって識別していることを突き止め、「カクレクマノミは、自分と同じ3本の帯模様を持つ魚に対する攻撃行動の頻度と持続時間が最も高い」ことがわかったと発表した。

同成果は、OIST 海洋生態進化発生生物学ユニットの林希奈博士、同・ヴィンセント・ラウデット教授らの研究チームによるもの。詳細は、比較動物生理学および生体力学に関する全般を扱う学術誌「Journal of Experimental Biology」に掲載された。

通常、カクレクマノミは、自分たちのイソギンチャクに多くの異なる種が訪れても気にしない性質があるが、自分のコロニーに属さない同種の魚がイソギンチャクに侵入してきた時、「アルファ・フィッシュ」と呼ばれるそのコロニーの中で最も大きな体格の魚がしつこく噛みつき侵入者を追い払う。これは、同じ種でも仲間なのか仲間でないのかを何らかの手段で識別しているということになる。研究チームは今回、カクレクマノミがどのようにして侵入者の種類を判別するのかを解明するため、実験室で飼育した幼いカクレクマノミを使って2つの実験を行うことにしたとする。

  • カクレクマノミの、異なる種のクマノミに対する攻撃行動が示された図

    カクレクマノミの、異なる種のクマノミに対する攻撃行動が示された図(生きたクマノミと模型の両方) (画像提供:林希奈博士、出所:OIST Webサイト)

1つ目の実験では、カクレクマノミのコロニーがある水槽の中に、白い帯模様の数が異なる種類のクマノミを入れた小さな水槽を入れ、クマノミがどれくらいの頻度で、どれくらいの時間、積極的にその水槽を見つめたり、周りを旋回したりするかが観察された。2つ目の実験では、カクレクマノミのコロニーに、クマノミそっくりに色付けしたさまざまなプラスチック製の模型を見せ、これらの模型に対する攻撃の度合いが測定された。

その結果、カクレクマノミは、自分と同じ3本の帯模様を持つ侵入者に、最も攻撃的な行動を示すことが確認されたという。2本の帯模様を持つ魚とプラモデルを攻撃する頻度はやや低く、1本または0本の帯模様を持つものに対する攻撃的な反応は最も低いことが観察されたとした。

過去の研究では、カクレクマノミは、縦帯模様よりも横帯模様(魚類は、前後(頭~尾)方向が縦、上下(背~腹)方向が横なので、背から腹にかけて走る縞模様は、横縞となる)の模型に強く反応することが示されており、さらに、白い色の量や白い帯模様の有無が決定的な要因ではないことが示唆されている。横帯模様以外に種を定義する特徴を持たないプラスチック製の模型に対して、生きた魚と同じ反応が示されたことを合わせて考えると、魚が侵入者に対する攻撃レベルを決める際、横帯模様の数を数えている可能性があるとする。

  • カクレクマノミの攻撃行動を測定するために使用されたプラスチック模型モデル

    カクレクマノミの攻撃行動を測定するために使用されたプラスチック模型モデル (写真提供:林希奈博士、出所:OIST Webサイト)

また今回の観察から、カクレクマノミのコロニーの中で、どの魚が侵入者を攻撃するのか、厳格なヒエラルキーがあることも発見された。野生のコロニーは通常、アルファのメス1匹、ベータのオス1匹、ガンマの幼魚数匹で構成されている。コロニー内での社会的序列は体格のわずかな差で決まる。クマノミは成長すると、最後の3本目の帯模様が現れるため、現在のアルファは現状を維持しようとし、体が大きくなりすぎたメンバーをコロニーから追い出すなど過酷な手段を用いるという。

今回の研究では、まだオスやメスに変態していない幼魚が使われたが、それでも同じように大きさに基づいたヒエラルキーが観察され、最も大きな幼魚がアルファの役割を担い侵入者に対して主導的な役割を果たしたことが観察された。林博士は、今回の研究は、クマノミのような魚が多数生息するサンゴ礁は繊細で壊れやすく、保護が必要だということを考えさせてくれるとしている。