京都大学(京大)、千葉大学、東京大学(東大)、九州大学(九大)の4者は2月2日、スーパーコンピュータ「富岳」を使って、突発的に短時間だけ電波で輝く宇宙最大の電波爆発現象の「高速電波バースト」(FRB)の再現に成功したことを共同で発表した。

同成果は、京大 基礎物理学研究所の岩本昌倫特任助教、千葉大 国際高等研究基幹の松本洋介准教授、東大大学院 理学系研究科の天野孝伸准教授、同・星野真弘教授、九大大学院 総合理工学研究院の松清修一教授らの協同研究チームによるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する機関学術誌「Physical Review Letters」に掲載された。

FRBとは、突如としてごく短時間だけ電波で輝く天体現象であり、宇宙最大の電波爆発で、その発生源は未解明な部分が多いが宇宙最強の磁場を持つことで知られる中性子星の一種である「マグネター」から放射されている可能性が観測から示唆されている。また、具体的な電波放射機構についても不明だが、マグネターはその莫大な磁場エネルギーを爆発により解放しており、爆発の際に吹き出した超音速のプラズマが衝撃波を形成して電波を放射するという説が有力候補の1つとされている。

しかし、その衝撃波からの電波放射が具体的にどのような特性を持っているかはわかっておらず、FRBの放射強度や偏光といった観測値を本当に再現できるかは不明のままだったとし、研究チームは今回、超大規模な第一原理シミュレーションを行い、衝撃波からの電波放射の特性を解明することを試みることにしたという。

シミュレーションは理化学研究所のスーパーコンピュータ「富岳」を用いて実施され、今回は63万4800個の演算コアおよび400テラバイトの物理メモリを使って、10兆個のプラズマ粒子の運動がシミュレーションされた。また、富岳の計算能力に加えて、富岳に特別に最適化された研究チーム独自の計算コードが用いられ、それによって今回の超大規模シミュレーションは実現したとする。

  • シミュレーション終了時点での衝撃波の構造

    シミュレーション終了時点での衝撃波の構造。(左)磁場が描かれており、手前側に向かって電波が放射されている。(右)プラズマ密度。細長い構造が電波によって作り出されている(出所:京大プレスリリースPDF)

今回のシミュレーションから分かったことは、電波の放射強度および周波数は観測と整合的であるという点。特に偏光に対しては、これまでのシミュレーション研究とは異なり、観測研究で広く使われている手法を使って定量的に評価が行われた。その結果、電波は強い直線偏光をしていること、また偏光面が時間と共に変動することが発見され、これらもまた矛盾なく観測を説明できることが明らかにされた。今回のシミュレーションはFRBを正しく再現できており、衝撃波からの電波放射がFRBの起源であることを裏付ける成果が初めて得られたとした。

FRBの電波信号には地球に到達するまでに通過してきた宇宙の情報が刻まれており、宇宙の進化や構造を探る道具として利用できると考えられている。そのため、FRBがどこでどのようにして発生しているのかを理解することが重要であり、今回の研究はその解明に大きく迫ったという。宇宙の進化や構造を探る学問を宇宙論と呼ぶが、今回の成果は宇宙論にも大きな波及効果をもたらすと期待される。

FRBの発生源の環境を直接的に観測することはできないため、プラズマの温度など、観測から決定できないものはシミュレーション内で仮定されていた。研究チームは今後、異なる条件下で同規模のシミュレーションを繰り返し、仮定の妥当性を検証する必要があるとしている。