【著者に聞く】『「勤め人」意識改革論』  安田直裕・Y’sラーニング事務所

持論を上梓して今、改めて思うこと

記=Ysラーニング事務所(「勤め人(びと)改革」アドバイザー) 安田 直裕

 わが国の産業競争力は衰え、経済力は低下の一途を辿っている。これを憂うるのは、まさか私だけではあるまい。そして私は、労働生産性の低迷が起因し、特にワークエンゲージメントのなさが真因であると考えている。「勤め人」が自己効力感をなくし、受け身のまま「いやいや働く」ようでは話にならない。一人ひとりが危機感を覚え、主体となって再生に挑戦しなければいけないのである。

 自信喪失の日本は、米国型の経営学に心酔し、主役であるはずの「人」を部材・部品としか見なさなくなってしまっているようだ。「人」をいかに安く仕入れ効率よく活用するか、という考えが主眼になっている。

 モチベーション向上の方策をあれやこれやと模索し、実行するが、あくまで上から目線でのやり方で、主体である「勤め人」の永続する内発的な動機付けには繋がっていない。経営者が危機感を抱き腐心するが、その内容は短期的で狭隘なものでしかない。リスクを顧みない、長期的な挑戦意欲は見られなくなってしまっている。

 これでは主役である牽引役の「人」が育つはずはない。

 一方、協調性が重要な性格スキルと見なされる中で、「勤め人」は同調圧力を跳ね返す勇気をなくしてしまっている。ほどほどの豊かさに満足し、小利口になり、失点を重ねない守りの行動しかとれない。自分の身をどういう立場に置くのが一番有利で危害が及ばないかしか考えない生き方が、有能な行動基準(処世術)になってしまったようだ。

 古希を過ぎた私は、拙著『「勤め人」意識改革論』を上梓(令和5年9月)し、セミナー等で、以下の内容を若手「勤め人」に強く啓発している。

 それは、(1)周囲に「合わせない」(2)上司に「遠慮しない」(3)評価を「気にしない」の3点である。組織の中でこれらを実行するには、相当な覚悟と心意気が求められる。ただそれは、日本人が本来持ち合わせていた精神性への回帰であるから、決して不可能ではないと信じている。強い「個」、すなわち「独立自尊の精神」を取り戻すことである。一人ひとりの意識改革を急がねばならない。

『「勤め人」意識改革論』 

安田直裕著 岐阜新聞社 定価1650円(税込)

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