農林水産省は、「農政の憲法」と呼ばれる食料・農業・農村基本法の改正案と関連4法案を1月26日召集の通常国会に提出する。基本法の改正は1999年の制定以来、初めて。人口減少で国内市場が縮小する中、いかに食料安全保障を確保していくかがテーマだが、「保護主義への先祖返り」との批判もある。今後数十年の農政を方向付ける法案審議だけに、丁寧な議論が求められる。
現行基本法はガット・ウルグアイラウンド交渉が妥結したことを受けて、農業の国際化や市場開放に対応するために制定された。大規模な専業農家が8割程度を占める効率的な農業構造を確立することを柱として掲げている。農水省は、今回の法改正でも「基本的な考えは変わらない」(幹部)との立場だ。
一方、基本法改正を主導する自民党農林族は「新自由主義からの脱却」(森山裕総務会長)を強調する。その象徴となるのが「多様な農業人材」の位置付けだ。自民党や農業団体は、兼業や自給的農家、中小・家族経営などに一定の役割を認め、政策的に支援することを狙う。生産集約と効率化を志向してきた従来の構造改革路線とは相容れない議論だ。
また、農業団体が基本法改正を通じて実現に強い意欲を示しているのが「適正な価格形成」に向けた仕組みづくりだ。ロシアによるウクライナ侵攻を機に原材料価格が値上がりしたが、価格転嫁が思うように進まなかったという不満が生産者側にはある。ただ、当初から国が民間の取引に関与するような制度に賛否があった。さらに「既に食品の値上げは相当程度進んでいる」(有識者)との意見もあり、落としどころは見えない。
4本の関連法案はそれぞれ、不測時の食料確保のための体制整備、農地転用に対する国の関与強化や農地所有法人の経営基盤強化、国産農産物の利用促進や原材料調達の安定化に向けた支援、減税や低利融資を通じたスマート農業の振興、が内容だ。政治資金をめぐり政局が混沌とする中、その成否に農業関係者の注目が集まっている。