名古屋大学(名大)と東京都立産業技術研究センター(都産技研)の両者は1月30日、押圧により色が変化する「メカノクロミック材料」と、木材を機械処理や化学処理によりナノサイズにまでほぐした天然物由来の材料「セルロースナノファイバー」(CNF)を用いて、機械的な圧力に応じて黄色から緑色へ色が変わる紙を開発したことを共同で発表した。
同成果は、名大大学院 工学研究科/名大 未来社会創造機構マテリアルイノベーション研究所の松尾豊教授、都産技研の小汲佳祐主任研究員らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行するエンジニアリング材料に関する全般を扱う学術誌「ACS Applied Engineering Materials」に掲載された。
メカノクロミズムとは、押されるなどの外部からの機械的刺激により、その物質の色が変化する現象のことをいい、同現象を起こす物質のことをメカノクロミック材料と呼ぶ。同材料については、その刺激応答性を活かし、圧力センサ、記録デバイス、ディスプレイデバイスなどへの応用が期待されている。
研究チームはこれまでの研究で、黄色から緑色へと見た目の色を変化させる特殊なメカノクロミック材料の「FA化合物」を開発している。同化合物は、フルオレン部位とアクリダン部位がエチレン架橋しており、機械的刺激に応じて、折れ曲がり型からねじれ型へと分子の立体構造が変化することにより、色が変化するという特徴を持つ。今回の研究では、FA化合物をCNFに混ぜ込むことで、押圧により色が変わるメカノクロミックペーパー(押圧により色が変わる紙)の開発を目指したという。
今回の研究では、繊維径の異なる3つのCNFを用いて、それぞれメカノクロミックペーパーを作製。メカノクロミックペーパーは、CNFを溶かした水溶液にFA化合物を混ぜ込み、型に流し込んで乾燥させるという非常にシンプルな手順で作製が可能だ。そして、作製されたメカノクロミックペーパーは、押されることで、FA化合物と同様に黄色から緑色へと色が変化することが確認されたとする。
また押圧に応答した緑色の部分は、アルコールとの接触により、応答前の黄色へ戻ることも確認されたとのこと。これは、メカノクロミックペーパーが繰り返し使用可能であることを示すものだ。なお、走査電子顕微鏡観察や接触角測定などを用いた表面の解析によって、色の戻り易さがCNFの繊維径に起因していることが突き止められたとしている。
メカノクロミックペーパーの機械的圧力応答性を定量的に議論するため、研究チームはナノインプリントと紫外可視分光法を組み合わせた圧力応答測定を行った。ナノインプリントとは、パターニングされたモールドを基板に押しつけることで、パターニングを基板に転写するスタンピング技法を行う装置のこと。同装置により垂直応力を加えられたサンプルに対し、紫外可視分光法による被加圧範囲の吸収波長を測定した結果、25~300MPaの範囲で機械的圧力に対して線形応答が示されたという。
またより簡便な検出方法として、CYM色彩解析を用いた画像処理法が検討された。すると、紫外可視分光法と同様に線形応答が確認され、かけた圧力が定量的に測定されたとする。これによりメカノクロミックペーパーは、繰り返し利用可能な圧力測定紙として利用できることが示された上、画像処理法では色の濃淡を抽出できるため、押圧の強さの分布を可視化することも可能となったとのことだ。
これまで、メカノクロミック化合物はその特性から圧力応答材料としての利用が期待されていたが、実際の応用事例は限定的だったという。それに対して今回の研究では、CNFへ混ぜ込むという簡便な方法でメカノクロミック化合物の応用が実現された。CNFは植物がCO2を取り込んだ脱炭素社会に貢献する次世代材料として大変に期待されている材料であり、今回の研究成果は、CNFの応用という観点からも、その発展に貢献するものと考えられるとしている。