米老舗新聞社のニューヨーク・タイムズ(NYT)は生成AI(人工知能)の学習用に大量の記事を無断使用したとして、対話型AIの「チャットGPT」を開発したオープンAIと、同社と提携しているマイクロソフトを米連邦裁判所に提訴した。
両社の著作権侵害行為により多額の損失が生じたと主張。記事の利用停止などを求めている。NYTが訴えを起こしたことで、他の大手メディアも生成AI開発企業に対する訴訟に打って出る可能性がある。
訴状によると、NYTは「マイクロソフトとオープンAIは支払いもせずに、ジャーナリズムに対する投資にただ乗りしようとしている」と非難。具体的な損害賠償額は示さなかったが、記事などのコンテンツの無断使用による被害額は数十億ドル(数千億円)に上るとの認識を示した。提訴を受けて公表した声明で、オープンAIは「訴訟には根拠がない」と反論。学習に使うことは著作権侵害には該当せず、「フェアユースだ」と強調した。
生成AI開発者がインターネット上に溢れる記事や写真などを学習用に許可なく利用すること事態が世界的に横行しており、大手メディアは対策強化に動く。野放しにしたままでは購読収入や広告料の減少につながり、経営基盤の弱体化は避けられないとの懸念が背景にある。
NYTは昨年8月、記事の無断使用を禁じるルールを導入。規約違反に対しては訴訟も辞さない考えを示している。記事利用の対価を徴収することを念頭に、AP通信はオープンAIと提携した。
生成AIを巡っては、記事作成のコスト削減につながるメリットがある一方で、偽情報発信の懸念が拭えないとして活用に慎重論があるのも事実だ。
先進国7カ国(G7)は昨年末、偽情報対策などを柱とした生成AIに関する包括ルールをまとめた。ルールを国際標準にしたい考え。経済や民主政治に悪影響を与えるフェイクニュースに関して、具体的な対策強化を官民一体となって打ち出すことが課題となる。