健康作りに欠かせない運動と食事について、介護度の高くない高齢者では歩数100歩あたり35~42キロカロリーのエネルギー摂取量で死亡リスクが最も低くなることを早稲田大学などのグループが明らかにした。単に歩けばよいというだけでなく、歩数に見合った適切なエネルギー摂取で運動と食事のバランスを取ることの重要性を示している。
早稲田大学スポーツ科学学術院の渡邉大輝助教(栄養疫学)らは、介護予防の推進と検証を目的に京都府亀岡市で行われている研究「亀岡スタディ」の65歳以上の住民を対象とし、2012年に食事の頻度や健康状態を問う質問票を送って調査。調査誤差を補正した1日あたりのエネルギー摂取量を計算した。
2013年には、活動計で歩数などを記録した。高齢者4159人(平均年齢72.3歳、男性2135人、女性2024人)が分析対象となり、1日あたりの平均歩数は4194歩、補正エネルギー摂取量は2172キロカロリーだった。
男性と女性で補正エネルギー摂取量と歩数の関係を見ると、どちらも1日あたり4000歩までは歩数が増えればエネルギー摂取量も増えたが、4000歩を超えると摂取量は頭打ちとなった。
渡邉助教らは今回の研究に先立ち、高齢者は1日当たりのエネルギー摂取量は男性で2400~2600、女性で1900~2000キロカロリー、歩数は男女とも約5000~7000歩で死亡リスクの低減が十分見込めることを2023年2月に論文発表している。この結果を用いて、1日あたり男性は2400、女性は1900キロカロリーのエネルギー摂取量を基準に高エネルギー摂取量の人(HE)と低エネルギー摂取量の人(LE)に分け、さらに歩数5000歩を基準に歩数の多い人(HS)と少ない人(LS)に分けて、4つのグループを作った。
4グループ間で死亡の発生に違いがあるかを3年5カ月ほど追跡調査で確認。全体で111人が亡くなった。死亡率が一番低かったのは高エネルギー摂取量で歩数の多い人(HE/HS)で、750人中1人のみだった。一方、低エネルギー摂取量で歩数の少ない人(LE/LS)は1352人中78人が亡くなった。
4グループの死亡リスクを、年齢や性別、肥満度、喫煙の有無、家族構成などがグループごとに異なることで及ぼす影響を調整して比較すると、低エネルギー摂取量で歩数の少ない人に比べて高エネルギー摂取量で歩数の多い人は死亡リスクが低かった。
渡邉助教らは、エネルギー摂取量と歩数のバランスが、死亡リスクとどう関係しているかも確認した。100歩あたりの補正エネルギー摂取量の変化に応じて死亡リスクがどのように増減するのか計算すると、100歩あたり35~42キロカロリーぐらいでグラフ上の死亡リスクが底を打った。先行研究や各種指針で高齢者に勧められる1日6000歩に換算すると、2100~2520キロカロリーを目安に食事をすることになる。
ただし、エネルギー摂取量と歩数のバランスについては、100歩あたりの補正エネルギー摂取量が28キロカロリー未満、あるいは56キロカロリー以上だと死亡リスクが低いとはいえなくなる。高齢者において食事が少ないまま歩いたり、歩かずに食事だけたくさんとったりすることでは、死亡リスクを低減する効果が得られないとみられる。
渡邉助教は今後、対象者の人数や追跡期間の少なさから確認できなかった、死亡リスクに対するエネルギー摂取量と歩数の相互作用関係を、より長期間の追跡で正確に評価したい考え。「今回の知見を生かし、健康のための身体活動量に応じた最適な栄養素摂取量を明らかにしたい」としている。
研究は、医薬基盤・健康・栄養研究所と、びわこ成蹊スポーツ大学、京都先端科学大学で行い、行動栄養学と身体活動の国際学会誌「IJBNPA」の電子版に2023年12月25日付けで掲載され、2024年1月9日に早稲田大学が発表した。
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