東京農工大学(農工大)と早稲田大学(早大)の両者は1月29日、光(電磁波)の波長に比べて小さいサイズの「誘電体導波路構造」を配列することで、自然界には存在しない屈折率や光機能を実現できる機能性表面である「メタサーフェス」を利用して、広視域角・高解像度・高効率のフルカラーホログラフィ動画を実現したことを共同で発表した。
同成果は、農工大大学院 生物システム応用科学府 生物機能システム科学専攻の山口眞和大学院生、農工大大学院 工学府 機械システム工学専攻の齋藤洋輝大学院生、早大 理工学術院の池沢聡研究院講師、農工大大学院 工学研究院 先端機械システム部門の岩見健太郎准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、ナノ構造と光子との相互作用に関する全般を扱う学術誌「Nanophotonics」に掲載された。
複数の光の波が互いに影響しあい、新しい光が生成される現象を「干渉」といい、それを意図的に引き起こすことで、裸眼でも立体像を観測可能な技術がホログラフィだ(より正確には、光の波面を記録したり再生したりすることのできる技術)。また、その光の波面が記録された媒体のことをホログラムという。
究極の立体ディスプレイを実現できる技術として長らく注目されてきたホログラフィは、各画素を通過した光の干渉を利用して像を投影するため、広い角度から観察可能な高精細画像を投影するためには、画素の間隔が1μm以下の超高密度な表示用デバイスが必要となるという。
そこで、光の波長以下の単位構造であるメタアトムを非常に高密度(数百nm程度)に配列したメタサーフェスを用いて、高画質な動画の投影を目指す研究が進められており、研究チームではこれまでにモノクロ動画の投影に成功している。しかしこれまでのところ、どの研究チームでもカラー化は実現できておらず、また効率も低い(損失が大きい)ことも課題だったとのこと。そこで今回の研究では、30フレームからなるフルカラー動画の投影を目指したとする。
今回は表示用デバイスとして、まず窒化シリコンのナノ柱をメタアトムとして選び、それが数億本ガラス基板上に配置された。そして、90フレーム(30フレーム×3色)からなるホログラム列を1枚の基板上に形成したとのこと。各フレームは2322×2322画素と、先行研究や一般的なディスプレイ(フルHD)よりも高解像度であり、340nmの画素間隔によりホログラム前面からの観察領域全体をカバーする180°の視域角を有しているとする。また、ナノ柱の製作を最適な加工条件下で行うことで、光の利用効率の向上も実現させたとした。
今回投影されたのは地球が回転する動画(2D)で、3色の投影像を重ね合わせることで投影動画のカラー化が実現された。また、自動ステージを用いて基板を機械的に動かすことで、ヒトの目で十分に滑らかに見える再生速度である55.9fpsでの投影に成功したという。
今回の研究では、1色の投影像につき1つのホログラムを用いたため、フルカラー動画のフレーム数の3倍のホログラムを製作する必要があった。そのため研究チームは今後、さらなる省スペース化や多機能化を目指して、今後は1つのホログラムでのフルカラー投影に挑戦するとのこと。さらに、空間光変調器のような変調機能を持つデバイスと組み合わせることができれば、高精細なフルカラー3次元像をフレーム数の制限を受けずに投影することが可能となるとし、ホログラフィを用いた立体映像技術の実用化に対して貢献できることが期待されるとしている。