月面着陸の直後から運用を休止していた実証機「スリム」が復活したことを、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が29日、明らかにした。20日に着陸に成功したものの、計画と異なる姿勢で着地。太陽電池で発電できない状態が続いていた。月面で日照の向きが変わったことで、発電を始めたとみられる。
スリムチームによるX(旧ツイッター)の投稿によると、28日夜に地上との通信を確立し、運用を再開した。搭載した分光カメラでの撮影もすぐに復活し、チームが「トイプードル」と愛称をつけていた岩石を撮影した。
スリムは低緯度の平原「神酒(みき)の海」にある「シオリクレーター」付近の傾斜地に、当初の目標からわずか約55メートルずれた場所に着陸。100メートル級の誤差を目指した世界初の「ピンポイント着陸」に成功し、同時に世界5カ国目の月面着陸を達成していた。ただ何らかの原因で2基の主エンジンのうち1基が停止。姿勢制御が十分にできず、着陸時、計画通りに太陽電池パネルを真上に向けた静止ができなかった。内蔵バッテリーのみで2時間半あまり活動し、いったん電源を切断。日照の向きが変わって発電できるようになれば復活する可能性があり、準備を進めていた。
着陸地点が日没を迎える来月1日まで、科学観測用の分光カメラを本格的に稼働できるとみられる。地下のマントルから月面にむき出しになった「かんらん石」の組成分析を通じ、月の起源の謎に迫れると期待されている。