東京工業大学(東工大)と大阪公立大学の両者は1月24日、光・電子機能を有する棒状の「有機π電子系分子」に、カルボン酸とアミンの脱水縮合によって形成される「アミド結合」を導入することにより、100℃程度で液晶相が発現する「超分子液晶」の作製に成功し、さらに超分子液晶をその秩序構造を保持したまま大面積に塗布する技術も開発したことを共同で発表した。

  • アミド結合を有するL字型分子による超分子液晶と、その偏光顕微鏡画像

    アミド結合を有するL字型分子による超分子液晶と、その偏光顕微鏡画像(出所:東工大プレスリリースPDF)

同成果は、東工大 物質理工学院 応用化学系の猿渡悠生大学院生、同・小西玄一准教授、大阪公大大学院 工学研究科 物質化学生命系専攻の竹内雅人准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、幅広い分野における凝集プロセスに関する全般を扱う学術誌「Aggregate」に掲載された。

液晶とは、結晶のような分子の配列と液体のような流動性を兼ね備えていることから、固体と液体の中間にある状態といわれる。液晶状態では、分子を簡単に大面積で規則性をもって配列させることが可能だ。近年、この液晶が持つ分子を配列させる技術が、有機半導体開発における実用的な電子デバイス製作の切り札として期待されている。

しかし、液晶や結晶の構造はさまざまな熱力学的なパラメーターに支配されており、分子設計の段階でその構造を予測することが困難だ。つまり、望みの物性・機能を得るために必要な分子の配列は“試してみないとわからない”という課題を抱えていたのである。

その打開策の1つとして、あらかじめ2つ以上の分子を会合させて(超分子)、そのブロックから液晶構造(秩序構造)を構築する超分子液晶の利用が行われてきた。ただし、過去に報告されている超分子液晶の多くは、水素結合のような強い相互作用と結合の方向性を持つものに限られており、構造の多様性が十分とはいえなかったとのこと。そのため、非水素結合系の新しい超分子による「超分子液晶」の開発が強く望まれていたという。

そこで研究チームは今回、超分子液晶の新しい可能性を探るため、これまで棒状液晶に利用されることの少なかった極性官能基を探索し、極性官能基が示す分子間相互作用を利用した秩序構造の形成と液晶性の発現を目指したとする。

今回の研究では、電子吸引性によりπ電子系分子に光・電子機能を付与することができ、シス型、トランス型の異なるコンフォメーションを持つ3級アミドが着目された。そして、さまざまな長さの棒状の分子骨格の末端に3級アミドを導入したL字形状の分子を合成し、フェニルトラン骨格を有するPTA-groupが、秩序性の高い液晶(スメクチックB相)を示すことが発見された。

  • 3級アミドの構造と新規液晶分子PTA-group、および液晶の偏光顕微鏡画像

    3級アミドの構造と新規液晶分子PTA-group、および液晶の偏光顕微鏡画像(出所:東工大プレスリリースPDF)

ここで得られた液晶の構造解析を行ったところ、固体状態から液体状態でL字型分子が共有結合を介さずに、超分子的に二量体(2分子で会合したユニット)を形成し、それらが六方晶状に配列していることが判明。しかし、液晶と結晶ではユニット間の距離や六方晶の長軸の長さに違いが見られたという。

そこで研究チームは、アミド結合を観察。すると、固体状態ではシス型であるが、液晶状態ではシス型とトランス型が共存しており、シス-トランス異性化が常時起こっていることが明らかにされた。これらの結果と量子化学計算から、L字型分子の二量体が秩序構造(結晶形)を構築し、アミド結合がシス-トランス異性化を起こすことで、系全体に運動性を付与して液晶性を発現することが突き止められたのである。

  • PTA-groupの相転移挙動

    PTA-groupの相転移挙動。低温側から順に結晶相(左)、液晶相(中央)、等方液体=溶融状態(右)(出所:東工大プレスリリースPDF)

そして最後に、PTA-groupの物性や機能の探索が実施された。一般にπ電子系分子の蛍光発光において、分子がスタックすると蛍光強度が大きく減少する場合が多いが、PTA-groupの二量体とその集合体は、消光を起こさず高い量子収率(54%)が示されたとする。この結果は、π電子系分子の固体発光材料や電子材料への応用を期待させるものであるという。またPTA-groupの1つはネマチック相を発現し、高い複屈折率(Δn=0.30)を示したといい、このような高複屈折材料としての特徴を持つPTA-groupは、光学フィルムとして有用であると考えられるとする。

研究チームは今後、3級アミドの特性を活かした超分子液晶を基盤とし、さまざまなπ電子系分子を用いた機能開発を行うと同時に、より高次な構造の構築や新しい超分子液晶のシステムを追究していくとしている。