東京都市大学(都市大)は1月26日、日本および東アジアで最古のウミガメ類(ウミガメ上科)となる骨化石を、鹿児島県の中生代白亜紀初期(約1億年前)の地層から発見したことを発表した。

同成果は、都市大 理工学部自然科学科の中島保寿准教授、大阪市立自然史博物館の宇都宮聡外来研究員(パナソニック所属)らの研究チームによるもの。詳細は、1月26~28日まで東北大学で開催された「日本古生物学会第173回例会」にて発表された。

ウミガメ類(ウミガメ上科)は、海に生息する大型のカメ類で、現在はアオウミガメ(ウミガメ科)やオサガメ(オサガメ科)など、2科6属7種のウミガメ類が生息している。ウミガメ類の起源は前期白亜紀の約1億3500万年前とされ、最古の化石は南米から発見されている。ウミガメ類の祖先は河川などの陸水域に生息していたが、やがて海に進出し、大きな体とヒレ状の手足を持ったウミガメ類となったと考えられている。

前期白亜紀(約1億4500万年前~約1億500万年前)のウミガメが発見される地域は、南米、ヨーロッパ、オーストラリアなどに限られているが、その後、後期白亜紀(約1億500万年前~約6600万年前)にかけて、ウミガメ類は世界中に分布するようになったという。日本でも、北海道や近畿地方を中心に後期白亜紀のウミガメ類が発見されている。そのような背景から、ウミガメ類が世界中に分布を広げる過程を明らかにする上で、後期白亜紀初期の化石は大変重要とされるが、同時代のウミガメ類の化石は珍しく、日本を含む北太平洋沿岸域からはほとんど化石が見つかっていなかったという。

これまで研究チームは、鹿児島県の最北端に位置する長島町の獅子島で化石発掘調査を行ってきた。同島には、約1億年前の地層「御所浦層群」が分布していることが知られ、その中でも陸において堆積した地層からは、恐竜類の「骨化石密集層(ボーンヘッド)」(骨や歯など、脊椎動物の骨格が密集して堆積した地層)や、淡水性カメ類の化石が発見されている。また海で堆積した地層からは、アンモナイト類や二枚貝類、巻貝類などの軟体動物のほか、中生代三畳紀(約5億5190万年前~約2億130万年前)から白亜紀(約1億4500万年前~約6600万年前)に生息した海棲は虫類の首長竜類(プレシオサウルス類)や、同時代に生息した飛翔性のは虫類である翼竜類などの大型脊椎動物の化石も発見済みだ。

御所浦層群の地層が堆積し始めた白亜紀中ごろは、現代と比べてもきわめて温暖で、鳥類や哺乳類、被子植物など、現代の生物につながる古生物が爆発的に進化した時代だったとされている。ウミガメ類もそうした時期に爆発的に進化した生物の1つで、当時の生態系と生物の進化について解明することは、現代の生態系のルーツを探ることでもあるといえるという。

研究チームは2020年10月に、御所浦層群の幣串層から新たに骨の入ったノジュール(塊状に固結した岩石)を発見。その後の都市大での分析の結果、ノジュールにはウミガメ類のものと考えられる甲羅の一部(外腹甲骨)と頸椎骨が保存されていることが確認された。今回発見された骨は、推定甲長約70cmという大型のカメ類のものであり、甲羅の骨同士の接合面(縫合)がゆるく柔軟性があることなど、形態の特徴からウミガメ類に属することが明らかとなった。なお今回の化石は、日本ならびに東アジア全体でもウミガメ類の化石としては最古のものであり、太平洋の北西部沿岸から発見された初期のウミガメ類として非常に希少なものだという。

  • 今回発見されたウミガメ類の骨化石を含むノジュールのCTスキャン画像

    今回発見されたウミガメ類の骨化石を含むノジュールのCTスキャン画像。(左)ノジュール全体の表面が立体化されたもの。(右)(左)の画像を透明化した上で骨への着色が行われたもの。赤は首の骨(頸椎骨)、緑は甲羅の一部の骨(外腹甲骨)(出所:都市大Webサイト)

  • 今回発見されたウミガメ類の発見部位と、クリーニングされた骨化石の画像

    今回発見されたウミガメ類の発見部位と、クリーニングされた骨化石の画像。全身骨格復元図(腹面)の上に発見部位(頸椎骨および外腹甲骨)が、赤色で示されている。化石が断片的であるため、復元図の大部分は近縁種の形態から復元されたもの。甲長はおよそ70cm程度と推定された。(出所:都市大Webサイト)

太平洋は白亜紀当時から世界最大の海域だったが、太平洋沿岸部から後期白亜紀初期のウミガメ類の化石が発見されることは珍しく、当時のウミガメ類の化石記録のほとんどは、大陸の上に広がる浅い海や、大陸に囲まれた狭い海域で堆積した地層に限られていたとのこと。そのため今回、太平洋北西部沿岸に相当する日本の地層から初期のウミガメ類が発見されたことは、ウミガメ類が広範囲に分布を広げた過程を解明する上で、大変重要な意義があるとする。

今回の研究成果は、日本から発見される化石が生物進化に関する世界的な研究課題の解決に重要な役割を担っていることを再認識させるものだといい、特にウミガメ類は現在も生息しており、保護の対象となる生物であるなど社会全体からの関心も高いことから、その生態進化を明らかにすることは多くの人にとって有意義なものになることが考えられるとする。また、今後は都市部の大学と、化石などの自然史資料が豊富な地方自治体が、双方の教育および研究の推進という目的のために協力しあう関係性を構築していくことが望まれるとのこと。また今回発見されたウミガメ類化石について研究チームは、鹿児島県西部の旧国名にちなみ「サツマムカシウミガメ」という通称を提案中だとしている。

  • 今回発見されたウミガメ類の生体復元模型

    今回発見されたウミガメ類の生体復元模型。復元模型の作製は、海洋堂の古田悟郎氏が依頼を受けて担当した。(c)古田悟郎(出所:都市大Webサイト)