【2024年の景気、株価、国際情勢をにらんで 経済リーダー41人が白熱議論】アサヒグループホールディングス会長・小路明善

新商品で需要拡大し、適度な価格アップができる経済構造を

 ─ 世の中との対話をどう進めていくかが大事ですね。アサヒグループホールディングス会長の小路明善さん、個人消費の動きをどう見ていますか。

 小路 個人消費が弱含みになってきています。個人消費はGDPの約55%。多少、景気低迷感を感じ始めているところです。背景の1つは内需です。人口が減り、高齢化してくると、個人消費はマイナスになりますので、内需の先細りがあると。

 今後は需要拡大などの要因でインフレが起こる「ディマンドプル・インフレ」を作っていかなければなりません。そのためには需要を創造し、その需要拡大によって適度な価格アップができる経済構造にしなければなりません。コロナ期に貯まったコロナ貯蓄は約71兆円とも言われていますから、それをいかに消費に回してもらうかです。

 ─ メーカーとしては新商品開発が重要になりますね。

 小路 そうですね。常に付加価値の高い商品、ブランド価値の高い商品とサービスを生み出すことが必要になります。

 ─ アサヒグループは売上収益の半分を海外があげ、中でも欧州の比率が高いですね。

 小路 はい。欧州もインフレで一時的に景気のリセッションを迎えています。ウクライナ危機で中東から難民が押しかけ、少し経済的に苦しい。ただ、消費性向はそれなりに高い。ビールの消費量もチェコが1人当たり世界一です。飲食を含めた個人消費が元に戻ってくると思っています。

 ─ 小路さんは経団連副会長も務めており、今は賃上げの必要性を訴えていますね。

 小路 はい、24年は日本の雇用システムの大きな転換点にあると感じます。

 1つ目は「人への投資」を賃上げでどう実現していくかです。投資は持続的に行い、最大のリターンを上げなければなりません。この場合のリターンは人の成長です。賃上げも含めた処遇全体の投資をして人の成長というリターンを最大化させる。これをベースに賃上げをしていかなければなりません。

 2つ目は個人所得全体をどう上げていくかです。実質賃金を上げると共に、医療・介護・教育といったソーシャル・ベーシックサービスの次世代への負担をいかに軽減していくかです。

 ─ 産業間の連携も大事になりますね。

 小路 中小・地域・有期社員の賃上げを大手企業がどうサポートするかです。これが一番のポイントです。経団連も「パートナーシップ構築宣言」を掲げ、適正な価格で取引コストのシェアをしていこうとしています。中小・地域・有期社員の人材シェアリングなどを行い、そういった分野の人たちの賃上げを大手がどう支えていくか。もはや大手が賃上げをすれば中小もついてくる時代ではありません。