関東学院大学と大阪大学(阪大)は、ネオン(20Ne)原子核に、5 つのアルファクラスターから構成されるガス状のボーズ・アインシュタイン凝縮状態(量子ガス状態)が存在することを理論的に予言したと発表した。

  • Ne原子核で5つのαクラスターがガス的に運動しているイメージ

    20Ne原子核で5つのαクラスターがガス的に運動しているイメージ (出所:関東学院大プレスリリースPDF)

同成果は、関東学院大 理工学部の船木靖郎准教授(理化学研究所 仁科加速器科学研究センター 客員研究員兼任)、同・山田泰一教授、阪大 核物理研究センターの堀内昶招へい教授、同・東崎昭弘共同研究員らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。

近年の研究から、原子核が基底状態の時にエネルギーが与えられて生じる励起状態では、しばしばその構造を大きく変えることが分かってきた。特に軽い原子核の励起状態においては、陽子2個中性子2個から成るヘリウム4原子核(4Heアルファ(α)粒子)を単位とした「αクラスター構造」が現れることが知られているが、これは陽子と中性子が独立に運動するとした結果生じる「殻模型構造」とは異なるもので、その典型例が、炭素(12C)原子核の励起状態である「ホイル状態」だという。

またこの状態は、3つのαクラスターに分解した共鳴状態であるだけでなく、それらがガスのように緩く束縛しており、かつ最低エネルギー軌道に低温領域で整数のスピンを持つ粒子である「ボーズ粒子」(光子などの力を媒介する粒子など)が最低エネルギー軌道を占有する現象である「ボーズ・アインシュタイン(BE)凝縮」という特殊な状態であることも示されてきた。

近年ではそのような特殊な構造状態は、ホイル状態に限らず酸素(16O)原子核の励起状態にも現れることが理論的に示唆されてきた。16O原子核では、4つのαクラスターに分解されて実現するBE凝縮のため、「4α凝縮状態」と呼ばれる。これは、基底状態から数えて6番目にエネルギーの高い準位として観測されている、励起エネルギー15.1MeV、スピン0で正パリティを持つ状態(06+状態)に対応する可能性が高いことがわかっているという。

しかしこれまで、16O原子核より重い原子核領域において、より一般的にα凝縮状態が存在するのかどうかの確定的な実験的、理論的証拠は無く、未知の領域だったという。ようやく近年、阪大の足立智特任研究員や同・川畑貴裕教授らによって20Ne原子核の23MeV付近の高励起エネルギー領域に、特殊なα崩壊過程を示す状態群を観測することに成功したことを報告。これは、αクラスターを1つ放出した残留核が、16Oの4α凝縮状態の候補である06+状態になっているというもので、「5α凝縮状態」の最有力候補だという。

α凝縮構造が原子核物質に一般的に存在するか否かを探るには、これまでの実験で観測された量子準位を理論的にも再現し、その構造を明らかにすることが必要とされていることから研究チームは今回、最新のαクラスター模型「東崎-堀内-シュック-レプケ模型」を20Ne原子核に適用し、数値シミュレーションを行うことにしたとする。これは核子20体系の問題をαクラスターの自由度を考慮しつつ量子力学的に解くもので、20Neのさまざまな量子準位のエネルギーや波動関数を与える方法だという。

  • ネオン原子核において、5α凝縮状態が励起状態に現れる様子のイメージ

    20Ne原子核において、5α凝縮状態が励起状態に現れる様子のイメージ。基底状態では核子による殻模型構造が実現しており、エネルギーの高い励起状態では密度の低い5αクラスター構造が現れている (出所:阪大Webサイト)

シミュレーションの結果得られたエネルギー準位と、実験データとの比較が行われたところ、実験で観測されている下側の2つの準位に対応する状態として、スピン0、正パリティの、0I+、0II+の2つの状態が得られたという。

  • エネルギー準位の計算結果と実験データとの比較

    エネルギー準位の計算結果と実験データとの比較。実験で観測されている下側2つの状態が、それぞれ計算結果である0I+状態、0II+状態に対応している (出所:阪大Webサイト)

また得られた量子状態の波動関数の解析から、これらの状態(0I+、0II+)は、16O原子核の4α凝縮状態(06+状態)にαクラスターがくっついた構造成分を極めて大きく持っていることが判明。これらは、5α凝縮状態となっている強い証拠となるとする。

さらに0I+状態、0II+状態に加え、基底状態に対しても同様の計算が行われたところ、0I+状態、0II+状態とはまったく異なった分布を持っていることが確認されたとするほか、0II+状態は、5α凝縮構造から、1つのαクラスターがエネルギーのより高い軌道に遷移した状態となっていることが示されたという。

  • αクラスターと16O残留核とに分解した時の16O原子核部分のチャンネル成分

    基底状態、0I+状態、0II+状態のそれぞれについて、αクラスターと16O残留核とに分解した時の16O原子核部分のチャンネル成分。基底状態の分布と異なり、0I+状態、0II+状態では、4α凝縮状態である16O原子核の06+状態の成分が支配的となっている (出所:阪大Webサイト)

加えて、αクラスターを1つ放出して16O原子核へと崩壊する際の崩壊チャンネルについての調査も実施。実験では、16O原子核の4α凝縮状態(06+)への崩壊過程がメインチャンネルとなることが観測されているが、理論計算によっても再現することに成功。これにより観測されていた不思議な崩壊過程を持つ状態が、理論模型が示すような、5つのαクラスターがガス的に配位し、α凝縮した構造を持った状態である強い証拠が得られたとした。

12C原子核や16O原子核でその存在が議論されてきたα凝縮状態だが、今回20Neにおいてもその存在を示す強い理論的証拠が示されたことから研究チームでは、この成果について原子核においてα凝縮状態が普遍的に存在することを強く示唆するものであり、原子核物質の存在形態に対する認識を深めるものだとしている。