新潟大学(新大)と北里大学の両者は1月23日、「マクロライド(M)系抗菌薬」と同抗菌薬から合成した非抗菌性誘導体「EM-523」が骨の再生・回復に働くことを、歯周病と骨粗鬆症の老齢動物モデル実験で明らかにしたことを共同で発表した。
同成果は、新大大学院 医歯学総合研究科 高度口腔機能教育研究センター/研究統括機構の前川知樹研究教授、同・前田健康教授、新大大学院 医歯学総合研究科 微生物感染症学分野の寺尾豊教授、新大大学院 医歯学総合研究科 歯周診断・再建学分野の多部田康一教授、北里大 大村智記念研究所の砂塚敏明教授、同・廣瀬友靖教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、物理・生命科学・地球科学などの幅広い分野を扱うオープンアクセスジャーナル「iScience」に掲載された。
現在、日本では歯周病患者が約400万人、骨粗鬆症患者は約1280万人と推定されており、高齢者の歯の喪失および骨粗鬆症によるフレイル(運動機能や認知機能が低下した状態)が問題となっている。こうした老齢期の骨に関連する疾患は、老化による骨や周囲組織の再生能の低下が原因の1つであると考えられており、骨の吸収抑制薬剤はあるものの、有効な骨再生薬剤や治療法がほとんどないのが現状だ。
そうした中、骨の吸収や破壊に重要な分子として、前川研究教授らによって突き止められたのが「DEL-1」だ。同分子は炎症により減少し、その結果として骨吸収が減ってしまう。それに対し、細菌などのタンパク質合成を阻害して細菌の増殖を抑えることで抗菌作用を表すM系抗菌薬は、減少したDEL-1を再誘導し骨吸収を制御することがわかっていた。
さらにDEL-1は骨の再生にも重要な上、さまざまな細胞に分化する幹細胞もDEL-1を発現し、新しい細胞を作り出す役割を持つことが示されていた。そこで研究チームは、このような重要な役割を果たすDEL-1が加齢に伴い減少することで、骨の再生能力が低下することに着目。それを再誘導し、骨を再生できないかと考察したという。
今回の研究では、歯周炎モデルのマウスを用いた実験が行われた。同モデルマウスは、10日間歯の周りに糸を巻くことで歯周炎を誘導し歯槽骨吸収が認められるが、糸を除去した後に5日間経過すると骨が再生するというモデルである。
マウスもヒトと同様、若齢(2か月齢)では十分な骨の再生が認められるが、老齢(12か月齢)ではほとんど骨再生が認められないとのこと。しかし、老齢マウスの骨再生期の歯ぐきにDEL-1を直接投与したところ、若齢と同じような骨の再生が認められるようになり、DEL-1が老化した骨再生に重要な役割を果たしていることが判明したとする。
続いて、M系抗菌薬が歯槽骨の再生に重要なDEL-1を誘導するかどうかが解析された。18か月齢の老齢マウスでは、歯の周囲の靭帯である歯根膜中「PDL」において、DEL-1や「α-SMA」などの骨に分化する「間葉系幹細胞」が大変少なくなっている。しかしM系抗菌薬が投与されると、DEL-1が誘導されることに加え、間葉系幹細胞の増加も確認されたとのこと。つまり、M系抗菌薬が老化で減少した歯根膜中のDEL-1を上昇させることで、骨の再生を誘導していたことが予想されるとしている。
次に、M系抗菌薬の一種「エリスロマイシン」が8週間投与された老齢マウスにおいて、全身の骨がどのように変化しているかが調べられた。すると、腓骨の骨量が増加を示し、この治療法が骨粗鬆症などの全身の骨量減少疾患に効果を示す可能性が示唆されたという。
ここで残された課題は、M系抗菌薬の長期投与で耐性菌の出現が危惧される点だ。そこで研究チームは、その抗菌作用を除去した上でDEL-1誘導効果を高めたエリスロマイシン誘導体のEM-523を使用。そして老齢マウスに全身投与を行ったところ、エリスロマイシンより数倍強力にDEL-1が回復し、歯槽骨の再生が促進されることが示されたとする。また、歯根膜由来培養細胞においても通常のM系抗菌薬の100分の1の濃度で骨様組織を誘導することも見出されたとのことだ。
またM系抗菌薬やEM-523は、年齢をマッチさせたDEL-1を欠損するマウスでは骨再生を誘導できなかったことから、骨再生に関してはDEL-1依存的に機能していることも突き止められたとした。
M系抗菌薬やEM-523は、老齢マウスのみならず、老齢サルの骨においても骨再生効果が確認されており、今後のヒトへの応用が期待されるという。そして、歯周病による局所的な骨欠損に対する骨再生療法への展開が期待されるのと同時に、骨粗鬆症治療薬としての応用と抗生物質の適応拡大へのエビデンス提供となるとする。研究チームは今後、骨再生効果と安全性をより高めた薬剤の開発による骨関連性疾患への治療薬につなげていくとしている。