関西学院大学(関学大)と名古屋大学(名大)の両者は1月23日、「ラマンイメージング」、「多変量スペクトル分解(MCR)法」、「古典的最小二乗(CLS)法」の組み合わせにより、愛知県知多半島師崎層群中の「巨大球状ドロマイトコンクリーション」の成分分布と同定を行い、ドロマイト、ケロジェン、アナターゼ、石英、斜長石、炭素質物質などを含むことを明らかにするとともに、同コンクリーションが生物有機物起源であることを示す直接的な証拠を得たと共同で発表した。
さらに、このコンクリーションは起源有機物が分解されるよりも速く形成され、コンクリーション化に伴うシーリング効果により、形成当時の状態(生物の有機物)を1000万年以上も保存することを明らかにしたことも併せて発表された。
同成果は、関学大 生命環境学部の壷井基裕教授、関学大大学院 理工学研究科の北中良佑大学院生、関学大の尾崎幸洋名誉教授、堀場テクノサービスの沼田朋子氏、深田地質研究所の村宮悠介氏、名大博物館の吉田英一教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。
地層の中に時折認められる硬い球状の塊である球状コンクリーションは、砕屑性の砂や泥の粒子の間を炭酸カルシウムなどの鉱物が充填しており、その中には保存状態が良好な化石が含まれている。研究チームの一員である名大の吉田教授の研究チームによれば、その成因は、化石のもととなった生物起源の炭素成分と、海水中のカルシウムイオンの反応によると考えられている。しかも、その形成スピードは直径数cmのもので数週間~数か月と、従来考えられていたよりもかなり速いことがわかってきたという。
また、関学大の壷井教授の研究チームは、2023年にコンクリーションに含まれる鉱物のアパタイトに関する顕微ラマン分光法(μmスケールにおける鉱物の種類や結晶性などの情報を得られる)を用いた分析を行い、それが生物起源である直接的な証拠を得ているとする。
そこで研究チームは今回、愛知県知多半島に分布する中新世師崎層群の地層に含まれる直径1.7mの巨大球状コンクリーションについて、ラマンイメージングに加え、MCR法とCLS法を駆使した詳細な分析を行ったとのこと。なおラマンイメージングとは、顕微ラマン分光法で得た情報を面に展開して分析することにより、ある領域における鉱物の分布などを得られる手法のことだ。またMCRとCLSは、どちらも多変量解析手法の一種であり、数多くの分析データを統計学的に解析することで、そこに含まれている情報を抽出することが可能である。
そして同分析の結果、巨大球状コンクリーションの構成物質を同定すると同時に、起源となった生物の有機物が残存していることが解明された。研究チームによるとこのことは、巨大コンクリーションが生物有機物起源であることの直接的な証拠となるという。つまり、コンクリーションは有機物が分解されるよりも速く形成したと考えられ、これは形成速度が非常に速いという新学説を裏付ける重要な結果だとしている。
さらに、コンクリーション化に伴う炭酸塩のシーリング効果(形成後の風化や変質といったさまざまな現象から隔離させる効果)により、形成後の地下2kmもの埋没などによる熱や圧力の影響を受けても内部の物質変化は抑制され、当時の状態を1000万年以上も保存できることも判明。このことは、コンクリーション化によるシーリング効果が非常に高いことを示すものであり、現在開発が進められているコンクリーション化剤の長期シーリング効果の説明としても役立つものとした。
今回の研究により、ラマンイメージングと多変量解析を合わせた研究手法を用いて、コンクリーションの形成メカニズムを詳細に解明できることが証明された。さらに今回の手法は、岩石をはじめとしたさまざまな地球環境物質の成因解析にも応用できるという。
またコンクリーションについては、その形成メカニズムをシーリング剤などへと工学的に応用する新技術の開発が進められているとのこと。今回のように、その形成メカニズムが詳細に解明されることにより、その応用技術開発・実用化にも大きく貢献できるとしている。