KDDIとWILLERの合弁会社であるCommunity Mobilityは12月1日から、つくば市およびつくばスマートシティ協議会と共に、乗合タクシー「つくタク」を活用してAIオンデマンド交通システムを導入する実証実験に取り組んでいる。
この実証は市が掲げる「つくばスーパーサイエンスシティ構想」の実現に向けて実施するもので、公共交通の課題解決を狙う。高齢化が進む郊外の利便性向上につなげるという。このほど、メディア向けに実証実験の様子と、これまでに得られた利用者の声などが公開された。
つくば市郊外の交通を担う乗合タクシー事業「つくタク」
つくタクは事前に利用したい時間を電話で予約し、自宅または最寄りの乗降場所から目的の乗降場所まで乗車する乗合タクシー。最大8人まで乗車可能。つくば市内の全5地区(筑波地区、大穂・豊里地区、桜地区、谷田部地区、茎崎地区)で運行している。2011年にサービスを開始した。
乗車予定日の5営業日前から、乗車当日の30分前まで電話予約ができる。今回の実証を行う茎崎地区では利用客のおよそ8割が高齢者であり、高齢化が進む地域の交通を担っていたという。1回(片道)の利用料金は300円。子供や高齢者、障害者、妊婦などは半額で利用可能だ。
予約の電話は5営業日前の正午から受け付けていたため、12時台に電話が集中して、8つの回線とオペレーターを設置しても予約を受けきれずに断る例もあったそうだ。電話がつながらず、市役所にクレームの電話が届くこともあったという。
また、これまでは運行と配車のスケジュールを人が管理しており、簡略化のために1時間に1つの運行ルートを設定していた。そのため、例えば9時台に5分程度の利用があった場合は、次の予定がある10時台まで車両を待機させる必要があったそうだ。地域の需要が高まっているにもかかわらず、こうした非効率的な運用が喫緊の課題となっていた。
2023年11月には、茎崎地区を走る3台のつくタクを月間延べ631人が利用。運行スケジュールの都合により、30件ほど利用を断った。つくば市の担当者によると、この30件には電話がつながらなかった件数を含めないため、地域住民の要望に応えられなかった数はさらに多いと思われる。
AIオンデマンド交通システムを活用した実証実験を開始
実証実験の期間は2023年12月1日から2024年2月29日まで。今回は茎崎地区を走る3台のつくタク車両のうち、1台にCommunity MobilityのAIオンデマンド交通システム「mobi」の技術を導入する。mobiは、出発地と目的地をアプリからリクエストすると、AIが道路状況やエリア内の移動リクエストを考慮して最適なルートで乗合タクシーを運行するサービス。
mobiを利用することで、つくタクでもアプリから乗車日の7日以内に24時間いつでも予約が可能となる。AIによる配車スケジュール管理とルート設定によって、運行の効率化が見込める。さらに、1時間に複数回の運行も可能となる。つくタクの収益性向上と、市が抱える負担の軽減を狙った実証実験だ。
つくば市では2025年度までに、市内を走る全20台のつくタクへAIオンデマンド交通システムを導入する予定だとしている。今回の実証により利用者の使用感や交通事業者の許容性を確認し、課題を抽出する。
約1カ月間の実証の成果と利用者の声
実証実験の開始から約1カ月が経過した。2023年12月には月間で延べ73人が利用したそうだ。その内訳は高齢者(65歳以上)が45%ほどで、障害者が8%、子どもが18%、その他の一般客が30%ほどだ。
通常時の利用客の約8割が高齢者であり、客層の変化が見られる。また、実証実験の車両ではなくこれまで通りの電話予約でつくタクを利用した人は500人を超えるとのことで、地域への浸透はまだ進んでいないようだ。
つくば市とCommunity Mobilityはこれまでに、mobiアプリの使い方を地域住民に伝える説明会を複数回実施してきた。高齢者を中心に約150人が参加したそうだ。地域住民とのコミュニケーションを通じて、さらなる利用の促進を図っている。
実証実験でつくタクを利用した住民からは、アプリを使って24時間いつでも予約ができるようになった点や、乗りたいときにその場で車両を呼べる点が特に高評価だという。また、迎えに来る車両の現在地がアプリから確認できるため、「あと何分くらいで車両が到着するのか分からない」「正確に予約できているのか」といった、利用者の不安を払しょくできる利点も感じられたとのことだ。
その一方で、つくタクの主な利用者層である高齢者にとって、アプリを使った予約操作は困難だとする声も挙がっている。アプリを用いた予約に完全に移行するのではなく、一定程度は電話予約に対応する必要性もあるなど、今後の課題なども得られているようだ。